大阪「ダブルクロス選挙」、維新の“奇策”はどこが問題か ロシアじゃあるまいし…
取材・文/粟野仁雄(ジャーナリスト)
こんな「奥の手」がまかり通れば、選挙の時期を自治体首長が恣意的に決められてしまい、公職選挙法も何もなくなる。「大阪維新の会」による「行政、選挙の私物化」は、民主主義を揺さぶる話だ。
大阪府の松井一郎知事(55)と大阪市の吉村洋文市長(43)が3月8日、そろって議会の議長に辞職届けを出して受理され、入れ替わって出馬するという「奇手」の出直し選挙(4月7日投開票)に打って出た。2人はこれまで主張してきた「大阪都構想」について、再度の住民投票をめぐって公明党とこじれにこじれた末、「公明党に騙された。民意を問う」と、この挙に出た。
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「死んでも死にきれない」
この夜、会見した松井知事は「都構想を諦めれば(有権者を)裏切ったことになる」「過去の二重行政、府市の対立、『不幸せ(府市合わせ)』と言われた、そういう大阪に戻さないために、もう一度、正常な形の法定協議会を作り上げて、そして住民の皆さんにもう一度判断をいただく。掲げた公約をやり切りたい」と強調した。吉村市長は「府と市が同じ方向を向けば大阪は発展する」などと話したが、2人とも「裏切られた」「騙された」と延々と公明党批判を展開、松井氏は「騙されても日和(ひよ)れば人生後悔する」、吉村氏は「死んでも死にきれない」と仰々しかった。
しかし、筆者が親しい大阪府民に「あの2人は、なんで都構想なんかにいつまでもこだわるのか?」と訊かれたように、大半の大阪府民は都構想に関心などない。人気者の橋下徹氏(49)を支持した手前、「都構想なんてわけわからんけど」と巨額の税金を使う都構想の住民投票に参加させられた、といったところだ。
政令指定都市の大阪市を解体し、改めて東京23区のように特別区に分ける大阪都構想は、橋下徹前市長が強力に推し進めていた。名目は、病院、水道、大学、図書館など、ダブっている「二重行政の無駄の解消」。事実、それぞれによき伝統を持つ大阪府立大学と大阪市立大学は、早くも統合されてしまう。
議会では折り合いがつかず、2015年5月の住民投票の結果、僅差の反対多数で敗れた。橋下市長は辞職し、後任に新人で衆院議員だった吉村氏を擁立。同年11月の府知事選と市長選のダブル選挙で2人とも当選した。松井知事は当時、2期目の任期中だった。2人は当選するや、「橋下遺産」の都構想を蒸し返していた。
過去の様々な経緯で、本来ならそれぞれの任期は、知事が今年11月、市長が同じく12月となっていた。しかし、自民党が絶対反対している都構想について公明党は、「都構想には反対だが(構想の設計図を作る)法定協議会と住民投票には賛成」との立場で、2017年、維新との間に「任期中に住民投票を行う」という密約をした。しかし「任期」をめぐって、維新は統一地方選の議員の任期、公明は知事・市長の任期について意見がこじれ、重ねた法定協議会も決裂し、維新はこの裏約束を暴露した。
公明側は激怒したが、松井知事は「暴露されて困るのなら、それは信頼していない証拠」と強調した。それなら最初から密約などしなければいい。
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