「火をつけてこい」発言の泉房穂・前明石市長 “出直し選挙”出馬で当選の可能性は?

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録音は隠し録りではない

 元神戸新聞記者で02年の明石市長選に立候補し北口氏に敗れ、現在、「市民自治あかし」を主宰する松本誠氏(74)は、「泉氏の楽勝などということはない。中川氏が降りたことで接戦になる。過去の選挙データを見ても、北口氏にはかなりの固定票がある」と見る。泉氏について松本氏は、「暴言が暴露されてから辞職までの危機管理は評価していい。しかし、その後1か月逃げまくって、市民への説明責任を果たさない市長の基本姿勢が問題」と指摘する。泉氏は3月議会での暴言についての説明や2月3日の「市民マニフェスト検証大会」もキャンセルした。松本氏らが主催する公開討論会に、他の立候補予定者はすべて参加したが、泉氏は「謹慎中の身なので」と参加しなかった。討論会は3月2日だったが、翌日には「市長継続を求める署名」の集会に出て、5日には報道関係者に出馬を明かし、7日の発表となった。

 松本氏は泉氏の8年の実績について「評価できる政策も多い。しかし、フェリー埠頭の跡地にマンションを建てさせたことや、市庁舎建て替え問題、住民投票条例案の改ざん問題など、追及してもまともに答えない。彼は地元ではなく、東京の有識者らに雑誌や本などで、自己を称賛するように発信させている。そういうアピールが、したたかで上手い。そこで彼が肯定評価している市議会なんて、ひどい状態ですよ」と手厳しい。確かに国会議員を経験し、東大出身なら、中央から発信させる人脈は豊富だろう。

 振り返って、今回の騒動の発端は「録音」だ。ところが松本氏によれば、これまでの報道と経緯はかなり違う。「隠し録りと言われていますが、録音した職員本人に確認したら、『録音機は机の上に置いたのであり、密かに録ったのではない。服に隠したら、あんなクリアな音にならない。泉市長はものすごく早口なのでメモが取り切れず、録音させてもらって持ち帰り、文字に起こすのが慣例。市長も録音されていたことを知らないはずはないのですが』と話している」と吐露する。となれば、「怒鳴ったり朝令暮改が多いので、職員がしっぺ返し目的で隠し録りしていた」という筆者も信じた説は、大きく違ってくる。やはり政治の世界は魑魅魍魎だ。

 それにしても最近、兵庫県の政治で話題になったものといえば、政務活動費の詐取がばれて号泣の野々村竜太郎元県議(52)、そして暴言のち涙の泉房穂氏……。どうも吉本新喜劇に思えてしまう。泉氏の場合、そう見せることも含めての、したたかさかもしれないが。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

2019年3月11日掲載

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