まんぷく「安藤サクラ」の関西弁に賛否両論 専門家が評価分かれる理由を徹底解説

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日本一難しい方言は関西弁

 更に時代背景などを考えると、「まんぷく」で安藤サクラが喋る関西弁は、丁寧すぎるところがあるという。

「多分、制作方針として、故意にそうしているのでしょう。時代背景などを考慮した、リアルな関西弁を意図的に避けている。例えば安藤さんのセリフに『絶対できます。満平さんなら』というものがありましたが、本当なら『絶対できます。満平さんやったら』です。アクセントなど発話のレベルではなく、『関西人は、こんな言い回しはしないぞ』という違和感を覚える地元の視聴者がいると考えられます」

 山下教授は気になったセリフを、しっかりメモに残している。一部を引用させていただくと、以下のような具合だ。

(番組のセリフ=誤)助けてあげなければなりません →(正)助けてあげなあきません
(誤)よろしくお願いいたします→(正)よろしゅうお頼もうします
(誤)乾燥時間も短くてすむ→(正)乾燥時間も短こうてすむ
(誤)この程度の味で満足してはいけないと思います→(正)この程度の味で満足したらあかんと思います

 ところが、この標準語に近いセリフを、安藤サクラが「一本調子で大げさ」な関西弁で喋ると、ネイティブらしく聞こえるのも事実だという。方言は実に奥が深い。

「実際のところ非ネイティブにとって、関西弁独特の言い回しを、関西弁の抑揚で喋るのは、至難の業です。言い回しを標準語に近づけることで、安藤さんの負担も軽くなった。アクセントや抑揚、強弱に集中できるようになり、本物の関西弁に近づいたのではないでしょうか」

 山下教授は「そもそも関西弁は、真似が難しい方言です」と指摘する。習得が容易な方言と、難しい方言があり、関西弁の難易度はトップクラスだという。

「“京阪式アクセント”と呼ばれますが、平安時代のアクセントが残っている代表地域が関西と四国です。この地域の方言は、慣れていない人が真似をしても“エセ”と見破られやすい。一方、江戸時代の東京で確立したアクセントに近い地域は、習得が容易です。具体的には、広島弁、山口弁などです。映画『仁義なき戦い』の広島弁を非ネイティブが真似しても、それなりに聞こえる理由です。あと、アクセントのない北関東の方言も容易だと言えます。つぶやきシローさんのモノマネは、誰がやっても、何とか格好がつくでしょう」

 安藤サクラ以外の出演者を調べてみると、安藤の姉を演じる内田有紀(43)の関西弁が「難あり」と言及されることが多いようだ。だが山下教授は「非ネイティブの関西弁は、内田さんで普通のレベルです」と擁護する。

「それだけ関西弁は難しいということです。ちなみに松坂慶子さんの関西弁を批判する書き込みもあるようですが、私の感想は真逆で、非常に上手いと思っています。実際、ご両親が兵庫県姫路市にご縁をお持ちのようですから、幼い時から関西弁を耳にされる機会があったのではないでしょうか」

 結局のところ、この賛否両論について山下教授は「真っ赤な偽物より、限りなくリアルに近い偽物のほうが、かえって批判されるものです」と総括する。

「日本語ができないアフリカの方に、めちゃくちゃな関西弁を喋ってもらったら、誰もが笑うはずです。あまりにもデタラメだと、全く腹が立ちません。でも、プロの役者さんが練習に練習を重ねた関西弁は、微妙な違いが気になって仕方がない。靴の中に小石が入ったような違和感があるわけです。関西弁に限らず、方言を扱うドラマや映画では、地元の人から批判が起きることは珍しくありません」

 4月1日から「まんぷく」に代わって放送が開始される「なつぞら」は広瀬すず(20)が主演。ヒロインのなつは東京生まれだが、戦争で両親を亡くし、北海道の十勝に引っ越すという設定だ。こちらは方言の問題を回避しているように見えるが……。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月9日掲載

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