「カメ止め!」プロデューサーが早大で“出前授業”、学生は映画館に行かないという現実

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映画を「年1本」しか観ない大学生

 興行収入が30億円を突破した「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督:アスミック・エース=ENBUゼミナール)は3月8日、「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系列)でテレビ初放送される。

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 後に詳述するが、「カメ止め!」は序盤から37分間のワンカット映像が続く。一体、どこでCMを入れるのかなど、放送日が近づくにつれて注目度は高まっている。

 そんな折、「カメ止め!」を制作した市橋浩治氏(55)は、2月25日、早稲田大学広告研究会の学生を相手に約1時間の“授業”を行った。

 内容は「私は如何にして『カメ止め!』をヒットさせたか」というテーマだったのだが、なぜ市橋氏が大学生に対して、宣伝の舞台裏を明かしたり、興収30億円突破の秘訣を解説したりしたのだろうか。

「実は『あの日々の話』という新作映画の製作に携わっていまして、映画は4月27日から公開されます。大学のサークルを舞台にしたコメディ作品ですから、多くの大学生に観てもらいたい。そのため製作委員会などで話し合い、早大の広告研究会に宣伝を協力してもらうことになりました。映画宣伝の実情について理解してもらうため、『カメ止め!』を“教材”として使ったんです」(市橋氏)

 市橋氏の本業は「ENBUゼミナール代表」として、俳優と監督の養成学校を経営している。「カメラを止めるな!」も俳優12人が支払った1人あたり約14万円のワークショップ受講料が“原資”であり、足りない分はクラウドファンディングなどで調達した。

 制作費は約300万円。これが興収30億円に化けたわけだが、この「シネマプロジェクト」で現在までに「カメ止め!」など16作品が製作され、昨年も「シネマプロジェクト第8弾」として2作品を製作している。

 新作の「あの日々の話」だが、こちらは「シネマプロジェクト」とは全く関係がない。もともとは舞台が原作。脚本と演出を手がけた玉田真也氏が、初演版と同じキャストで映画化を果たした。ちなみに玉田監督は平田オリザの率いる「青年団」の演出部からキャリアをスタートさせた演劇人だ。

 作品の内容は、とある大学サークルが盛り上がる二次会のカラオケボックスが舞台。ひょんなことから男子学生が女子学生のバッグにコンドームが入っているのを見つけてしまう。男子組は「今夜はみんなでヤレるかも!」と一気にテンションを上げるのだが、対する女子学生たちは――というもの。人間関係を巡る重いテーマも内包するが、基本は「サークルあるある」のコメディだ。

 そして玉田監督は、「ENBUゼミナール」の演劇・俳優コースで、19年度卒業公演を受け持つ講師。そんな間柄だから、市橋氏は「あの日々の話」の舞台版も観劇しており、玉田監督から映画化の夢も直接、聞かされていた。

 玉田監督は映画化の資金を、市橋氏が「シネマプロジェクト」で協力関係を築いてきたクラウドファンディング「MOTION GALLERY」で調達。昨年18年に完成させると高い評価を受け、10月に開かれた第31回東京国際映画祭の「日本映画スプラッシュ部門」に正式出品された。

 満を持した形で4月27日から渋谷のユーロスペースを皮切りに全国でロードショーされるのだが、公開や宣伝のため資金の一部を市橋氏が出資。エグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねたというわけだ。

 こんな流れがあって、2月25日の“講義”を迎えたわけだが、広告研究会の学生、約20人が出席する中、市橋氏が「制作費300万円、広告費ゼロ円」の「カメ止め!」がどうやってマスコミに認知され、観客の評価から口コミで広まっていったのかを丁寧に解説。学生は真剣に聞き入り、メモを取る者も多かった。

 市橋氏は説明の途中でも学生に質問を浴びせ活発な意見交換が行われたのだが、そこで浮き彫りになったのは、大学生が少なくとも映画館では、ほとんど映画を観ない現状だ。

 何しろ興収30億円突破の「カメ止め!」でさえ、観た学生は数人。そのうちの1人は「市橋さんの授業を聴く」ためにDVDをレンタル。また1人は自宅でネット配信、もう1人は国際線の機内。「映画館で観た」という学生は誰もいなかった。

 授業では「『コード・ブルー』を観た人、手を挙げて」、「『ボヘミアン・ラプソディー』を観た人、手を挙げて」と質問が重ねられていくと、「映画館で観るのは年に1回、それもシネコンで上映される大作映画」という学生が大半だと分かった。

「若者のテレビ離れ」は本当で、市橋氏が「テレ東のドラマ『フルーツ宅配便』、知ってる?」と声をかけても反応は鈍い。こうしたことから、映画のテレビCMは大学生に全く届かないことが浮き彫りになった。ある男子学生からは「単館の映画館は映画通の人しか行ってはいけないイメージがあり、敷居が高い」との意見も飛び出した。

 今の時代、大学生に映画館で映画を観てもらうのは大変なことのようだが、市橋代表は「ある程度は把握していました」と冷静だ。

「『カメ止め!』も30代以上がメインで、大学生にも高校生にも、まだ観てもらっていないという感覚があるんです。社会人として苦労した人の方が『カメ止め!』の内容に共感してくれるということもあるのですが、大学生が映画館で映画を観るという行為自体が著しく減少しているということを、今回、『ああ、なるほどね』と再認識させてもらいました」

 とはいえ、「あの日々の話」を観た学生からは、「まるで自分たちの姿が描かれているようだ」との感想が語られた。大学生にとっても「サークルあるある」の面白い映画なのだ。「カメ止め!」と同じように渋谷のユーロスペース1館の上映で幕を開けるわけだが、ヒットの手応えも感じているという。

「『カメ止め!』に続けと言われることも多く、名誉なことだと思っています。実際、『あの日々の話』は、何のサークルで、いつの時代なのか、わざと語っていません。私は55歳ですが、自分の学生時代を思い出して笑いました。そして広告研究会の学生も、同じ感想を持ってくれたわけです。これは幅広い層に受け入れてもらえる作品だ、という想いが強くなりましたね」(市橋氏)

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