「平和のために日本は謝れ」 反日・反米を煽る文在寅「3.1演説」の正しい読み方

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米国への憎悪を煽って同盟廃棄

 今年の3・1節の大統領演説で、日本のメディアが見落としていることがもう1つある。それは、「反日」を隠れ蓑にした「反米」演説だったことだ。「親日残滓の清算」のくだりを引用する。

《尊敬する国民の皆様、親日残滓の清算はあまりに長い間、手を付けてこなかった問題です。日帝は独立軍を「匪賊」と、独立運動家を「思想犯」と見なし弾圧しました。ここで「パルゲンイ(=アカ)」という言葉もできました。左右の敵対、理念の烙印は日帝が民族の間を離間するために使った手段でした。 》

 日本帝国主義が朝鮮人を分断統治するため、共産主義者のレッテル貼りをした、というのがポイントだ。では、これを聞いた韓国人は、そう受け取るのだろうか。韓国の識者に聞いてみた。

 A氏は言う。「“パルゲンイ”は1945年の南北分断の後に多用されるようになった言葉で、日本とは関係ない」「大統領は“民族分断”を言挙げすることで、世論を反米に誘導している」。

 確かに「パルゲンイ」と聞けば、普通の韓国人は、李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン) と続いた、権威主義的な政権を思い出すであろう。当時、反政府勢力は「パルゲンイ」と決めつけられ、弾圧されていたからだ。

 韓国の左派の間では、「これら権威主義的な政府を操っていたのは米国」との認識が一般的だ。文在寅大統領も、それを理論化した『転換期の論理』 という書物を学生時代から信奉し、2017年の大統領選挙前には「国民が読むべき1冊の本」として推薦 していた(拙著『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」 参照)。

「日本が我々を分割統治した」とのくだりは、多くの韓国人の耳には「米国がいまだに我々を分割統治している」との非難に聞こえたであろう。「米国」という言葉は1度も出てこなかった が、韓国人がこの演説を聞けば「米国からの離脱」を感じ取る仕組みになっている。

 それを示唆する部分が今回の演説の中にある。今年2月下旬になって突然、文在寅大統領が使い始めた「新朝鮮半島体制」 という概念だ。韓国では米韓同盟に代わり、周辺大国が参加する集団安全保障体制により、朝鮮半島の安全を担保する構想、と受け止められている。

 3月1日の演説で大統領は、「我々が主導する100年の秩序」「対立と葛藤を終わらせる平和協力共同体」「新しい経済協力共同体」 と定義したうえ、「3・1独立運動の精神と国民統合を土台に新朝鮮半島体制を耕す 」と訴えた。

 要は、米国による民族の分断統治を断ち切って、朝鮮民族が団結して自立の道を歩む――との宣言だ。米韓同盟を捨てる代わりに、北朝鮮が開発した「民族の核」で周辺大国に対抗するつもりだろう。

 文在寅大統領は、「米韓同盟廃棄」への心の準備をさせるためにも、日本だけではなく米国への憎しみも煽ったに違いない。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月8日掲載

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