安い! 広い! 面白い! 「欧州民泊漂流記」家族旅行編(2)
パリですっかり味を占めた高井家は、2017年の夏のダブリン(アイルランド首都)からベルファスト(イギリス・北アイルランド首都)へと巡ったアイルランド島ツアーでもAirbnb(エアビーアンドビー、通称エアビー)を使いました。
「外さない」ためのノウハウ
ダブリンはパリと同じ「カギを探せ」方式。通りに面したエントランスのドアの下にある、ナンバーロック式のキーボックスに番号を入力するとカギが出てくるというパターンでした。宿を探すのも、キーボックスを見つけるのも、ちょっと楽しい。しかも、このミッションをクリアした先に待っていたのが、想像以上に広々とした豪華な部屋でした。
階段で3つのフロアが連結されている変則的な間取りで、玄関を入ったフロアにはダイニングと2つのシングルが入ったベッドルーム、階段を下った部分に7~8人がゆったり過ごせる広いリビングとバルコニー、上の階にはシングルベッドが3つ並べられる、ゆったりとしたベッドルームがありました。バルコニーを入れれば、100平米を優に超えるこのアパートメントで、2泊のお値段は390ポンドほど。清掃など諸経費が90ポンドほどかかっているので、宿泊費だけなら1泊150ポンド、2万円ぐらいです。女性陣からも「めっちゃ広い! さすがサミオ!(←私の家庭内ニックネームです……。由来は長くなるので割愛します)」と絶賛の嵐。
ここで、この部屋に決めた経緯を例に、エアビーで「外さない」ための私流のノウハウを少々ご紹介します。
エアビーのサイトは、日程と都市名を入れると候補の部屋が地図上にプロットされて出てきて、そこからいろいろと条件を加えて絞り込む、というのが基本的な流れです。今、試しに、ダブリンで1カ月後に5人で貸し切りタイプ、と入れると300以上の部屋がヒットします。
私が最初にやるのは価格の絞り込みです。キモは「上」と「下」を両方切ること。エアビーには、1泊10万円を軽く超えるような超豪華物件がある一方、「雨風がしのげればOK」みたいな超格安の部屋もあります。前者は身分不相応、後者はあまりに悲しいので、だいたい1泊2万円前後に検索対象を限定します。この辺りはボリュームゾーンなので、選択肢は豊富。サイトによると、ダブリンの平均相場は2万4000円ほどです。
次に「ベッドが5つ以上ある」という条件を加えます。いくらサイズが大きくても、ダブルベッドは眠りが浅くなりがちで、特に旅行先ではなおさらです。アルハンブラ(スペイン)とパリで添い寝になった奥様と三女が睡眠不足気味になった反省から、ベッド数は譲れない条件としました。
こんな物件でもそこそこ数があるのが民泊のメリット。今、上記の条件でフィルターをかけても、70件以上がダブリン内にあります。
その次にロケーションを詰めます。私が狙うのは「中心街・観光スポットから徒歩20~30分」の部屋です。これぐらいだとコスパが良く、散歩感覚で観光地にアクセスできて、「ど真ん中」より夜は静かに落ち着いて過ごせます。
このとき、Googleマップとストリートビューを併用するのをオススメします。レストランやパン屋、スーパーの有無、物件周囲の町並みから治安状況などを確認できます。良さげな部屋でも、ストリートビューで確認するとグラフィティだらけの危なげな界隈のど真ん中だったり、工場地帯で周囲に買い物する場所がまったくなかったりするケースがあります。
これで10件ぐらいまで絞り込んだら、次にエアビーのサイトに上がっている写真を入念にチェック。部屋の写真は「盛ってある」ので割り引いて見ましょう。それより大事なのは見せ方。観光地のイメージ写真やオシャレな小物のアップばかりの部屋は地雷臭がします。対照的に、キッチンやバスルームの様子をきっちり上げている物件は、ホストが部屋のクオリティーに自信を持っている傍証です。可能なら、ベッド数が申告通りかもカウントします。これを間違えるとツアー参加者=家族の機嫌を損ねますので……。
ここまで粘着質(?)にリサーチして3件程度に絞り込んだら、家族にエアビーのリンクを送ってご希望をお伺いしまして、ようやく決定となります。
「よくまあ、そんな面倒なことを」と思うかもしれませんが、エアビーのサイトは使い勝手が良いので、慣れれば2時間ほどで済む作業ですし、何より、部屋がどれもこれもバラエティーに富んでいるので、見て回るだけでも楽しいのです。
こうして選りすぐったダブリンの部屋は、見学ツアーがダブリン観光の定番であるギネス工場から徒歩5分ほど。ギネス前から観光用馬車(!)で中心街にもアクセスできる愉快な滞在先になりました。偶然、宿から中心街に向かう途中にあった劇場でダブリンを舞台とした映画『ONCE ダブリンの街角で』のミュージカルが上演中で、着いた日の晩に舞台を楽しめたのが良い思い出です。あとの観光はリバーダンス鑑賞など定番コースですので、例によって割愛いたします。
ダブリンからベルファストには鉄道で移動しました。実はこれがこの時の旅行の私の目的の1つでした。今、まさに英国のEU(欧州連合)離脱で最大の焦点になっているアイルランド国境を陸路で越える体験をしてみたい、と思ったのです。
が。結果から言うと、これは「企画倒れ」というか、何のイベント感もありませんでした。国境付近でGoogleマップとにらめっこしていましたが、いつ国境を越えたのか、さっぱり分かりませんでした。東海道新幹線に乗っていて、神奈川から静岡、静岡から愛知に入るように、シームレスというかボーダーレス。
正直拍子抜けしましたが、逆説的に「こんなところに国境を復活させるなんて、不可能だ」と実感できました。
「スーパーホスト」の絶景フラット
さて、ベルファストの宿です。実はこちらは、行く前から「当たり」という自信がありました。なぜなら、初めて「スーパーホスト」の部屋を確保できていたからです。
スーパーホストはエアビー公認の「素晴らしいホスピタリティを提供するホスト」のことです。宿泊先を選ぶ際にスーパーホスト限定と条件付けすることもできます。ただし、当然ですが、そうすると物件数が限定されます。私の場合は、まず前述した自分なりの条件で絞り込んでから、スーパーホスト物件が空いていたら選択するようにしています。
スーパーホスト物件の確保には、別のハードルもあります。ホストによる承認です。エアビーには、「すぐ予約可能」な部屋と、ホスト側が承認するまで予約が確定しない部屋があります。ホスト側にゲスト(宿泊客)を選ぶ権利があるのです。
いわゆる「評価経済」らしいシステムで、こんな仕組みになっています。
宿泊後、部屋を借りたゲストは、エアビーの運営から総合評価や設備、ホストによる情報提供など項目別に5段階評価のアンケートへの回答を求められます。同時並行で、ホスト側もゲストについて評価やコメントをエアビーに提出します。両者の評価が出そろうまで、双方の評価は公表されません。正直に低評価を付けても、報復で低評価を付けられる心配はありません。
スーパーホストともなれば、低評価が付いている札付きの客を泊めなくても、高い稼働率をキープできます。一方の泊まる側も、お行儀良くして「良いゲスト」として定評ができれば、審査を通りやすくなります。
例えば、エアビーの部屋の利用ルールには「パーティー禁止」というのがよくあります。近所迷惑なほど大騒ぎしたり、羽目を外して家具を壊したりする輩は、ブラックリスト入りとなります。バカ騒ぎもせず、部屋を綺麗に使う傾向がある日本人ゲストには有利(?)な制度だと思います。「来た時より綺麗に」がモットーの高井家はもちろん、優良ゲストであります。
さすがのスーパーホスト案件で、ベルファスト西部の住宅エリアに位置する6階のペントハウスは、ゆったりした3つのベッドルームと3方向に開けた素晴らしい展望の広々とした豪華なリビング、2つのバスルームを備えた素晴らしい部屋でした。内装や家具も手入れが行き届いていて、居心地は抜群で、お値段は1泊3万円ほど。
ここのチェックインは「お出迎え方式」。インターホンを鳴らすと家主さんがカギを引き渡すついでに部屋を案内してくれて、設備やセキュリティー、観光の交通アクセスなどを直接、教えてもらえます。リビングの眺望に家族が「うわー!」と歓声を上げると、ホストがかなりドヤ顔になったのが印象的でした。アイルランドの英語は独特の訛りがあってなかなか苦労するのですが、さすがはスーパーホスト、標準的な発音で手際よくレクチャーしてくれて助かりました。ウェルカムワインも用意する周到さ。できるな……。
ベルファストの観光は、定番ではありますが、「タイタニック・ベルファスト」(タイタニック博物館)が期待を超えて家族に大評判でした。カソリック住民の居住区を隔てる「ピースウォール」の壁画や、北アイルランド紛争時に政治犯も収容されたクラムリンロードの刑務所跡地の見学など、英国・アイルランドの複雑で暗い歴史に触れる良い機会にもなりました。
「ただいま」という気分
私が民泊で特に気に入っている点として、「我が家感」を挙げたいと思います。エアビーは「いろんなわが家に旅しよう」というキャッチコピーを使っています。これ、よく考えると、矛盾しているような、変なフレーズですよね。
変なのですが、これは実にうまい表現です。実際、2~3泊もしていると、部屋に戻ったとき「ただいま~」という気分になるのです。ホテル滞在の「前線基地に帰還した」という感覚とは、微妙な、でも大きな違いがあります。
天気が悪いときや疲れ気味で、「今日は午前中は部屋で休憩しようか」というときなんかに、この感覚の差はもっとはっきりします。ベッドと小さなテーブルがあるぐらいの普通のホテルの部屋だと「閉じ込められてる感」がどうしても強く、貧乏性の私は時間を浪費しているような気になってくるのですが、居心地の良いソファやバルコニーのテーブルでコーヒーやビールを飲みながら家族と過ごしていると、「ま、これはこれでアリか」という余裕が生まれます。私は遅寝・早起きな人間なので、女性陣がベッドルームで朝寝している間、ゆっくりリビングでお茶をしながら読書ができるのも、有難い。
さて、連載1回目と2回目は成功体験ばかりお伝えしてきましたが、世の中そんなに甘くはありません。
次回のシチリア島(イタリア)旅行では、そこそこ手痛い失敗が待っていました。古都パレルモの旧市街の絶景フラットに潜んでいた意外な落とし穴とは……。
お楽しみに!(つづく)