名バイプレイヤー・光石研の初主演ドラマは、相当いたたまれなくてやるせない
今期のドラマ、民放地上波ゴールデン枠がほぼほぼ凡庸で心揺さぶられず。その代わりに深夜枠で満足する構図になっている。キーワードは「おじさん」と「微妙な感情の交錯」だ。そのどちらもほどよく満たしているのが、光石研主演の「デザイナー渋井直人の休日」である(祝・連ドラ初主演)。
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おしゃれなおじさんの素敵な日常をポップに映し出す、なんて思ったら大間違い。毎回「気まずい」「気恥ずかしい」の嵐だから。観る側を侵食してくる「思い当たるフシ」の連続。自分の仕事に誇りをもち、経験も積み、立ち位置もそこそこかなと思っている人ほど、この恥ずかしさを経験していると思われる。
でも、うぬぼれて現状をひけらかすほど心臓は強くないし、鼻にかけることをむしろ格好悪いとさえ思っている。プライドをくすぐる褒め言葉やお世辞に弱くて、勘違いしてその気になっちゃったり。そんな独身五十路男を光石研が演じる。
雑誌のエディトリアルデザインから書籍の装丁デザイン、またアーティストのCDジャケットの仕事も請け負うフリーデザイナーの役だ。ファッションにも料理にもこだわりをもち、仕事の哲学もちゃんとある。それでも世間一般的に超有名人ではなく、業界内で知る人ぞ知る人、という立ち位置だ。この微妙な設定が光石の本領を発揮させる。
地位も名声も欲しいわけではないが、それなりに評価されたい、褒められたい、ちやほやされたい、ついでにちょっとモテたいと心の中では思っている。「一流」「特別」「色気がある」の言葉にも弱い。その密かな欲望がうっかり曝(さら)け出されてしまったり、自意識過剰で自爆して落ち込んだり。喜怒哀楽などという単純な感情とは別の、もっと些末な感情に振り回される様子を、光石が見事に体現する。
そもそも光石が名バイプレイヤーであることは間違いないし、少なくともこの十数年間のテレビドラマ界では不可欠の俳優だ。何ひとつ主張してこないパーツの集合体といった風貌で、あらゆる役を演じてきた。
時には妻をずっと見下していたいモラハラ夫、時にはべらんめえな工務店社長や鮨職人、悪女にまんまと操られるオタク男からミスを隠蔽する矮小な公務員まで、「光石と言えばこの役」と括ることができない多面体ぶり。決まった監督や脚本家に重用される〇〇組とも呼ばれないが、毎クール必ずどこかの局のどこかのドラマで、さりげなくしれっと佇んで職務を全うする。色がつかない技術は凄腕の証拠。そんな光石が演じるおじさんは、相当いたたまれなくて、やるせない。
若手アシスタント役を演じる岡山天音(あまね)も、絶妙に光石の恥ずかしさや小ささを引き立てる。光石を辱(はずかし)めたり貶(おとし)めたりする、抜群の舞台装置として存在している。
復讐だの正義だのトラウマだのカタルシスだのと、激情を描く作品ではないし、事件だ事故だ裁判だの大仕掛けもない。でも、焦りやこっ恥ずかしさがじわじわと広がり、汗染みのように黄ばんで取れなくなる。こんなドラマは稀有だと思う。