韓国国会議長の“噴飯要求”、発言撤回を阻止するマンガのような理由とは
文/屋山太郎(政治評論家)
韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長は慰安婦問題について安倍首相か国王(天皇)が「おばあさんの手をとって謝ってくれれば一発で片がつく」と述べた。日本が一礼を払えば、日韓間に横たわる“慰安婦問題”というしこりは一挙に取り払われるという考え方なのだろう。それなら2015年に安倍首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の合意で、日本が10億円出し、韓国の出資分と合わせて慰安婦に配布し、慰安婦問題を終結させる。韓国側はできれば慰安婦像を撤去する。この合意はどうなるのか。
日本はこれ以前に、河野談話や首脳の訪韓を通じて何度も謝っている。安倍・朴合意の時には自民党内から「あまり韓国を甘やかすな」と強い反対もあった。安倍氏の反論は「不可逆的解決」を約束させて、ケリをつけるから、というものだった。「不可逆的」というのは決して「元に戻らない」という強い意味であって、朴大統領はもちろん、文国会議長も、この程度の単語の意味は承知だろう。
安倍・朴宣言を読めば、もう一度謝れということ自体、とんでもない裏切りだ。韓国人が「慰安婦」というとカッとなるのは、現実に多くの婦人が強制的に日本軍に連れて行かれたと思い込んでいるからだ。戦後の一時期「従軍慰安婦強制連行」という言葉が流行し、日本の中学校の教科書にも載ったほどだ。そのベースとなったのが吉田清治のヨタ小説「私の戦争犯罪」(三一書房)である。出版当時に地元紙の記者が検証したが「根も葉もない」という結論だった。しかし朝日新聞が吉田氏の著書を宣伝し、90年代に入って「慰安所に40円で売られた」自称する老婦人を紙面で大々的に紹介した。のちにこの婦人の居た場所が軍の慰安所ではなかったと判明する。
日本側は(1)朝日の掲げた慰安婦はウソ。(2)軍管理の慰安所があったこと自体ウソ。(3)韓国がいいつのっている事柄には真実味がない――と無実を立証しようとしている。
一方、韓国側は歴代、首相や官房長官が謝っているのだから“実”のある話だと主張する。いくつもの“実”を重ねて、日本は慰安婦を奴隷のように使う国――というイメージを作り上げようとしている。真実はどちらなのか。
河野洋平官房長官(当時)は韓国側が連れてきた十数人の慰安婦の事情を聴取した。日本側からの質問は一切禁止。向う側が述べたことをまとめて、冒頭に「申し訳なかった」旨の談話をつけたのが河野談話である。事情を聞いた人が、年令や場所が不審だったから、一問質問すれば架空の話が崩れるだろう場面が何度もあったという。
発言の中で「強制された」という人はいなかったのに、河野が談話で「ありました」と述べた結果、壮大なデッチあげ話がまとまることになった。
外務官僚の失敗はこれで謝り続ければ、いずれ評判は収まると思ったこと。安倍首相の発想は「無いものは無いもの」とはっきりさせるのが外交の基本だというものだ。
追及と共に信用が一気に消滅したのが、朝日新聞社だった。朝日新聞が(1)「女狩り」の本の宣伝は間違いだったこと。(2)紙面で紹介した老慰安婦は実は軍に売られた人ではなかったこと。この2点にかかわるすべての記事を取り消した。取り消したのは16本、実に32年振りで、朝日は返り血を浴びてか、発行部数は約800万部から約400万部に落ちているという。
慰安婦問題を追及していて気付いたのは、韓国側陣営について日本政府を突き上げているのは日本の左翼弁護士が多いことだ。救うべき慰安婦が数多くいるなら当然だが、ファクトが全くない事件を膨らまして自国の評判を落とすことにどれだけの意味があるのか。
[1/3ページ]