日本人が道徳を失った「バカ店員動画」への溜息 対策はあるのか

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ゆとり世代の人気者は

 評論家の唐沢俊一氏が嘆息する。

「かつての日本には“お家やご先祖様に恥じぬよう”という義理を重んじる文化がありました。今日ではそうした感覚が疎んじられ、個人の自由や権利ばかりが声高に叫ばれるようになった。ただ、いつの時代も大人になるということは、自分を抑えて社会の歯車になることに変わりありません。個人的な欲望を抑えて社会の要請に順応する。その点を無視するのは自由の意味をはき違えているだけです」

 他方、ゆとり世代の間で人気を勝ち取るのは勉強や運動ができる子よりも、芸達者で面白い子だそうで、

「いかにバカなマネをして周囲に笑ってもらえるかが肝心なのです。人前でバカを晒すことを何よりも恥と感じ、子どもが何かしでかす度に“人様に顔向けできない”と叱られた時代には考えられないことです」

 その昔、『菊と刀』で日本を「恥の文化」と規定したのは米国の文化人類学者、ルース・ベネディクトだった。こんな悪ふざけ動画を嬉々として公開することに恥ずかしさを覚えないとすれば、日本人の道徳も地に落ちたという他ない。

「してはいけない」を知る

 ジャーナリストの徳岡孝夫氏も危機感を訴える。

「日本人はもともと、“してはいけないことが分かっている国民”でした。たとえ震災が起きても、救援物資を求める被災者は整然と列をなし、“お先にどうぞ”とお年寄りに順番を譲ることもある。外国の人々からすれば驚くべき光景で、“なんと規律と道徳を重んじる国民なのだろう”と目を丸くしていたわけです」

 しかし、他人の迷惑を顧みない「バカ動画」の流行を見るにつけ、悲しいかな、日本人の美徳が失われてしまったように感じられると徳岡氏は嘆くのだ。

「いまの若者には、決まり事を重んじる古き日本社会は不自由で窮屈に映るのでしょう。師匠に弟子入りして不条理に耐えながら芸を磨くのではなく、やりたいことだけをやる。実際に、それでビックリするようなお金を稼ぐ人もいるわけです。ただ、誰もがそれに追随すれば、世の中は何でもありの“lawlessness(無法状態)”になってしまう。私が若者に伝えたいのは、“いま”はそう長くは続かないということ。遊び半分で好き放題していても、結局は自分たちが現実社会の掌の上で踊っていたに過ぎないことを知る日が来る。大切な時間の過ごし方をもう一度、考え直してほしい」

 法的措置を講じられたバイト店員たちは、周囲よりも早く「現実を知る」こととなった。

 だが、彼らが同時に「恥」や「道徳」を知らない限り、ネット上から「バカ動画」が消える日は来ない。

週刊新潮 2019年2月21日号掲載

特集「日本人が道徳を失った『バカ店員動画』への溜息」より

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