「いきなり!ステーキ」米国進出大苦戦で囁かれる“国内拡大路線”の赤信号
ペッパーフードも赤字に転落
2月14日には「ペッパーフードが8年ぶり赤字」(共同通信)とも報じられた。記事によると《2018年12月期連結決算は、純損益が8年ぶりの赤字》だったのだ。
一方、ニューヨークの日本語新聞「週刊NY生活」(電子版)は同日に「7店舗閉店決定のいきなりステーキ米国川野社長本紙に語る」の記事を掲載した。
この記事によると、「いきなり!ステーキ」側は「第1ラウンドは破れたが、第2ラウンドでまた闘う」と表明。アメリカからは撤退しないとし、ニューヨークに「ペッパーランチ」を出店するほか、ラスベガスに新店舗をオープンさせるなどの計画を発表している。
まだまだペッパーフード側は強気というわけだが、この経営判断を専門家はどう見ているか、フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏に訊いた。
「発表された『いきなり!ステーキ』の1月上期の客数は“全店”で前年同期比164.3%です。一見すると好調に見えますが、オープンして15か月が経過した“既存店”では81.4%にとどまりました。出店当初は人気を呼んでも、1年が過ぎると売上・客数・客単価が下落するという問題点は改善されていません」
ペッパーフードサービスを経営するのは一瀬邦夫社長だ。一瀬社長はニューヨークに進出した際、「全米1000店舗展開を目指す」と高らかに宣言していた。
「一瀬社長は“情熱”を前面に出す経営者です。かつて、『「ペッパーランチ」と「いきなり!ステーキ」で全国1000店舗まで広げていくのが夢』と発言しておられます。スケールの大きな発言に魅了される人も少なくないでしょう」
とはいえ、現実は厳しいと言わざるを得ない。
「今回の縮小で全米1000店舗の実現性が疑問視されるようになり、更に国内での1000店舗も黄信号が点ったのではないでしょうか。今の『いきなり!ステーキ』は客単価が2000円を超えます。これほど高額な客単価で1000店舗を展開できた企業は、外食産業では居酒屋チェーン以外例を見ません。居酒屋は時間消費型の側面がありますが、『いきなり!ステーキ』はおしゃべりを楽しむという店ではありません」
千葉氏は「新規出店の速度を見直す必要があるか、検討に入るべきでしょう」と分析する。
「立ち上がりの『ステーキが1500円で腹一杯食べられる』というコンセプトの素晴らしさが、今の苦境で余計に浮かび上がるようになってきました。その点から個人的に気になるのは、都内でも店舗によって客数にばらつきがある点です」
千葉氏によると、例えば新宿区の店舗は現在でも行列ができているが、台東区の店舗は来客数が少ないという。
これと共通するのが、ネット上で、“アンチ・「いきなり!ステーキ」派”の書き込みが目立つことだ。多い感想は「ランチのステーキは肉が固く、これで1390円は高い」だ。
「『CABワイルドステーキ』が2月13日から15日までの『ワイルド祭り』で1000円に値下げされると客が戻った、とネットに書かれているそうですが、リアリティのある話だと思います。『いきなり!ステーキ』が誕生した際、その価格設定は『庶民の味方』でした。ところがオープンから丸5年が経過し、ランチなら1000円札1枚で足りていたはずが、いつの間にか1000円札と500円玉を出さなければならなくなった。ディナーなら2500円です。こうなると誰もが簡単に出せる額ではありません。気がつくと『いきなり!ステーキ』は、客を選ぶ店になっていた。“裏切られた”と感じたファンも少なくないのではないでしょうか」(同・千葉氏)
一瀬社長は14年、専門誌「飲食店経営」のインタビューに応じ、店の魅力を以下のように解説している。
《300gを食べても1500円(税別。以下同)。500gでも2500円という圧倒的な価格破壊の値付けだけに、お客さまの感動もひとしおです》
やはり消費者は正直だ。現在の価格なら、500グラムのリブロースステーキは3450円だ。圧倒的な価格破壊がセールスポイントだったはずなのに、950円の値上げとなっている。
一瀬社長は“原点”に戻る必要があるようだ。店舗拡大ではない“次の一手”は何か、多くの関係者が注視している。
註:「飲食店経営」の記事名は《特別企画 「肉メニュー」の繁盛する仕組み その(1)「俺の~」シリーズバージョンのステーキハウス誕生 20坪で1日客数380人(東京・中央区)「いきなり!ステーキ」はこうして生まれた》
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