第3の選択肢「どちらでもない」が人気という「沖縄県民投票」の空騒ぎ

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「どっちでもいいかな」

 だが、県民投票の最大の焦点はもはや投票率でもなければ、反対票の多寡でもないというのが筆者の見方である。

 当初筆者は、普天間基地の辺野古移設を問う県民投票ならまだしも、埋立ての賛否のみを問う県民投票には意義はないと考えていた。なぜなら、「埋立ては好ましくないが、普天間基地の固定化を避けるためにやむをえない」「普天間基地の継続使用がベストだから埋立てには反対」「埋立てには反対だが、県内の別の場所に基地を移設することには賛成」「埋立てに賛成したくないが、国防上やむをえない」といった多様な民意をうまくすくいきれないからだ。多様な民意が存在するのに、「埋立て」というシングル・イシューで「是か非か」を問うのは、あまりにも乱暴だと考えたのである。

 ところが、「どちらでもない」という選択肢があらたに追加されたことで、県民投票は少々違った様相を呈してきた。

「どちらでもない」に注目するきっかけを与えてくれたのは玉城知事だ。1月28日の沖縄大学における講演で、聴講していた学生から、選択肢「どちらでもない」とは何かと尋ねられた玉城知事は、「うーん、わかんねえな、どっちでもいいかな」と答えたという(1月28日付産経ニュース)。

 一般に「どちらでもない」は、「埋立て賛成でも反対でもない、第3の道がある(はずだ)」という立場だと理解されるが、不意の質問に慌てたせいか、玉城知事は「どっちでもいいかな」と拍子抜けするような答えを返してきたのである。

 知事の揚げ足を取ろうというのではない。むしろ名門出身やスーパーエリートが占める歴代知事と違って、米軍人の血を引く庶民派感覚の玉城知事らしい発言だ。

 玉城知事は迂闊にもごく普通のウチナーンチュ(沖縄人)の感覚で語ってしまったのではないか。県政の頂点にいる人物さえ、「どちらでもない」を「どっちでもいい」と取り違えるような政治空間のなかで、国防・安全保障に関わる辺野古移設が議論され、県民投票が行われようとしていることにあらためて気づかされた。これが沖縄の実情である。

 たしかに一般県民の埋立てに対する認識は、「賛成」「反対」の2択では捉えきれない。「どちらもだめ」「どちらでもいい」「わからない」といった玉虫色の認識を持つ県民も少なくない。県民投票における「どちらでもない」は、こうした多様な認識をことごとく吸収できる選択肢となっており、開票してみたら「大化け」する可能性は高い。

 たとえば、平成27年度に沖縄県が実施した「地域安全保障に関する県民意識調査」のなかの「普天間飛行場を、名護市辺野古に移設する政府の方針に賛成ですか。反対ですか」という設問に対して、「賛成」13・5%、「どちらかといえば賛成」12・0%、「どちらかといえば反対」13・6%、「反対」44・6%、「わからない」15・3%、「無回答」1・0%という比率で回答が返ってきている。

「どちらかといえば賛成」「どちらかといえば反対」「わからない」「無回答」の数値は、県民投票の選択肢なら「どちらでもない」に包括されうるが、合計で41・9%に上り、「反対」の44・6%とほぼ肩を並べている。

 こうした前例を尊重すると、今回の県民投票で「どちらでもない」が埋立てに「賛成」を上回ることはほぼ確実で、「反対」を脅かす数字にまで成長する可能性もある。

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