流行りの「おじさんたちのシェアハウス」ドラマに安心する理由

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「面白」と銘打っていても本当に面白いモノは少ない。原作は面白いのに、金かけて映画やドラマにすると、面白がすっぽり抜け落ち、家族回帰や感動話に収めて面白くなくなっちゃうことも多い。が、これは面白い。しかも超低予算の清貧ぶり。「面白南極料理人」である。

 舞台は平均気温マイナス54℃、標高3800メートルの南極。7人の観測隊員たちが精神的に追い込まれつつも、1年間の共同生活を営む。雪原風景でロケをする気などさらさらない。むしろなくていい。面白に焦点を絞り、振り切っているから。

 観測と技術の専門家である隊員たちの唯一の愉しみが日々の食事。飽きないよう工夫を凝らし、さまざまな料理を提供するのが、主人公・浜野謙太だ。

 隊員は、盛り上げ上手で根は真面目なマキタスポーツ、無頓着だが案外乙女な田中要次、斜に構えた研究職が似合いすぎるというかそのものの山中崇(たかし)、意外と一途でラブリーな緋田康人(ひだやすひと)、無邪気と陰気を併せ持つ岩崎う大(だい)(ヒュー・ジャックマン似)に、唯一若くてイケメンの福山翔大である。

 観測生活初日は衝撃的だった。前任者(野間口徹)が基地内を案内し、歓迎会を開いてくれるのだが、ひとりの隊員(山中聡)はなぜかバニーガールの扮装で平然と振る舞う。1年の間に彼に何が起こったのか。観測日誌をめくってみると、隊員たちの心が徐々に病んでいく様子がみてとれる。いかに過酷か。皆不安を抱く。

 ところが、だ。おじさんしかいない空間では、なぜか幼稚化。そして中性化。

 例えば、南極では水が貴重で風呂で使う量は決められている。勝手に入浴した犯人を探すために、お互いの体のニオイを嗅ぎ合ってキャッキャする。バレンタインにはチョコの数で人気を競い、おじさん同士がイチャイチャ。浜野は比較的冷静に、このおじさんたちの構図を眺めつつ、いたずらを仕掛けたり、小競り合いを投票で丸く収めたりもする。すこぶる平和なオチ。

 一昨年からドラマ界で流行し始めた「おじさんたちのシェアハウス」状態ね。ただし、外はウイルスさえも死滅する極寒の地。逃げ場がない。今は仲良くはしゃいでいても、この先、心のバランスを崩しそうな気配が。でも、役者も芸人もうまい人が集まっとるから、安心して観ていられる。

 おばさんの私がこのおじさんドラマをなぜ面白いと思うのか。理由はふたつ。

 ひとつは、性別や年功序列による役割の押し付けがないから。仕事、家事、育児、介護。ドラマの中では無意識のうちに女性の役割というか負担が多く描かれる。が、おじさんしかいないし、観測の仕事を日々こなし、生活に関してはフラットに当番制。余計な描写でイラッとせず、脱力したまま観られるのだ。

 もうひとつは、怒鳴る・威張る・居丈高なおじさんがひとりもいないから。議員に多いよね、この手のおじさん。もううんざりなの。

 しかし、おばさんが楽しげに集うコメディはほぼない。「やっぱり猫が好き」を超えるモノをそろそろ観たい。よろしく、テレ東系。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年2月14日号掲載

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