安倍政権の「働き方改革」を叩くリベラルの本音 次なる課題は“金銭解雇”導入だ

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「金銭解雇」は不可避

 こうして、会社(役所)という「おイエ」に滅私奉公して「社畜の幸福」を得るサラリーマン人生が完成した。ちなみに「サラリーマン」は和製英語で、日本以外にこのような働き方をしている労働者はいない。

 身分差別、国籍差別、性差別、年齢差別の上に成立している日本的雇用を、「日本の文化・伝統」で正当化することはもはやできない。安倍政権が進める「働き方改革」に頑強に反対するひとたちがぜったいに認めないのは、この単純な事実だ。

 差別のない社会に変えていこうとすれば、身分や性別、年齢、国籍にかかわらずすべての労働者を「成果」によって平等に評価し、一定の水準に達しない者はルールに則って「金銭解雇」するしかない。会社が雇用できる人数にはかぎりがあるのだから、より高い能力をもつ人材を正当に評価し雇用するには、そのための席を空けなくてはならない。

「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」は1990年代の就職氷河期に大学卒業が重なった世代で、正社員の割合や年収が低く、独身比率が高い。彼ら/彼女たちは50代に差しかかろうとしてもいまだ非正規という「下層身分」に押し込められており、20年後には巨大な貧困層を形成すると予想されている。金銭解雇をもっと早く導入していれば、不運にして非正規から社会人をスタートしたとしても、正当な競争によってよりよい仕事に就く道が開かれただろう。「ロスジェネ」は、差別的な日本型雇用の犠牲者だ。

 1960年代の公民権運動以降、アメリカではあらゆる差別が訴訟の対象にされたが、その一方で従業員を評価・選別しなければ組織は成り立たない。その試行錯誤から、「学歴・資格」と「経験・実績」のみで採用や昇進、解雇を決める雇用制度がつくられていった。成果主義がグローバルスタンダードになったのはなにかの「陰謀」ではなく、原理的に、それ以外に平等な働き方が存在しないからだ。

「国際的な雇用」と「日本的な雇用」が対立しているわけではない。身分差別のないリベラルな雇用制度と、差別的な雇用制度があるだけだ。

 会社での働き方をスペシャリスト(専門職)とバックオフィス(事務職)に分ける国際標準の「高度プロフェッショナル制度」がようやく成立した。リベラルな「働き方改革」を進めようとすれば、安倍政権の次の課題は「金銭解雇導入」になる。

「人権派」や「リベラル」を自任するメディアや知識人は「首切り法案」とかの罵詈雑言を浴びせるにちがいないが、その本音は自分たち(正社員)の既得権を守ることだ。こうして誰がエゴイストの差別主義者かが白日の下にさらされ、きれいごとだけいうひとたちは、いつものように特大の墓穴を掘ることになるだろう。

※参考文献:有斐閣『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(大内伸哉/川口大司 編著)

橘玲(たちばな・あきら)
作家。1959年生まれ。『80's』『朝日ぎらい』などのノンフィクション作品とともに、小説も手掛ける。新書大賞2017受賞の『言ってはいけない』に続く最新刊『もっと言ってはいけない』もベストセラーに。

週刊新潮 2019年2月7日号掲載

特別読物「『もっと言ってはいけない』著者が予見する 『働き方改革』の残酷な未来」より

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