がん専門医が「がん」になって分かったこと 早期発見、人任せでなくセルフチェックを

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日本人の「ヘルスリテラシー」

 ある調査によると、日本人の「ヘルスリテラシー」は、調査対象の15カ国の中で最下位というデータがあります。ヘルスリテラシーとは健康に関する情報を入手・理解し、活用する能力のこと。それが、先進国はもちろん、発展途上国のミャンマーやベトナムより低い。これは、かなり深刻です。病気を予防する「能力」や「知識」が世界の中で劣っているのですから。

 最近は、早期発見のために、いろんな検査サービスがあります。しかし、リスクを少しでも減らすためにまず、やって頂きたいのが「セルフチェック」です。

 以前、昭和天皇のすい臓がんの手術をした先輩医師に、「直腸指診」というのを勧められたことがあります。定期的に自分のお尻の穴に指を突っ込んで、違和感がないかを確かめるのです。直腸がんを早く見つけるために、そこまでやるのかと驚いたものですが、実際には簡単なセルフチェックだけでも役に立つのです。

 女性の健康情報サイトによると、乳がんも自分で触診することで46%が、がん発見につながっている。しかし、それを実践している人は7%しかいません。

 セルフチェックは他にもできることがあります。時々、首や腋の下、脚の付け根にあるリンパ節に触れてみるのもいい。腫れが続いていたら、一度検査に行ってみるべきです。風邪をひいているわけでもないのに、声がかすれたり喉がガラガラする日が続くというのも異変のシグナルです。

 面倒に感じるかも知れませんが、簡単なことの積み重ねががんの早期発見につながることが多いのです。がんになった「がん専門医」の私が言うのだから間違いありません。

中川恵一(なかがわ・けいいち)
東京大学医学部附属病院准教授(放射線科)。文科省「がん教育」の在り方に関する検討会委員。著書に『がんの練習帳』など多数。

週刊新潮 2019年1月31日号掲載

特集「がんになった『がん専門医』の独白」

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