情緒不安定な船越英一郎にキョトン顔の深田恭子…新作ドラマの「迷走キャラ」についていけない

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 父がいる老人ホームでは、ごくたまに怒鳴り声がする。入居者の機嫌が悪く、怒っているのだ。聞くたびにびくっとする。私が住んでいる繁華街でも、ごくたまに怒鳴り声が聞こえる。真夜中に。たいていが喧嘩か酔狂。何度聞いても慣れないというか、一瞬、緊張する。

 突然怒鳴り散らす人は世の中にはたくさんいる。心の病が原因の場合もあれば、理不尽極まりない、身勝手な理由の場合もある。ドラマではこういう人物はスパイスになりうるのだが、あまりに続くと、辟易する。船越英一郎が新年早々怒りまくりでちょっと嫌だなと思い始めたのが「トレース~科捜研の男~」(フジ)だ。

 登場シーンは毎回なんだかちょっとカッコつけてるし、科捜研の部屋での動きがどうにもこうにも外連味(けれんみ)満タン。往年の柴田恭兵っぽい。いや、お元気だけど。

 そして、捜査一課の刑事の割に勘が鈍くて、いつも先入観で捜査方針を誤る。船越、長いキャリアの中でこんなにデキない刑事を演じるのは久々ではないか。

 科捜研に対して超絶上から目線で、自分が間違っていても決して非を認めず。でもDV被害者に思いを寄せて涙ぐんだり、部下思いの一面も見せたりして、なんだかとっちらかっているのである。定年前で焦っていること、上層部から常に成果を求められていること、妻子に逃げられたことなど、ミドルクライシスど真ん中なのはわかるが、科捜研の面々に対してあまりに理不尽だし、威圧的で暴力的。新境地かもしれないが、この船越はどうにもいただけない。情緒不安定なオジサンとしか思えず。科捜研の男と情緒不安定な刑事。

 逆に、情緒不安定になってもおかしくない設定なのに、切迫感や現実味がまるで出てこないのが「初めて恋をした日に読む話」(TBS)の深田恭子だ。相変わらずのキョトン顔。いや、キョトンとしとる場合か。

 東大受験に失敗した日以来、母(檀ふみ)から「みっともない」「恥ずかしい娘」と精神的虐待を受けている割に、のほほんと実家暮らしwithデカイ高級犬。塾講師として働くも生徒から不人気でクビ寸前。たいしたことない彼氏からもフラれて「本気で恋をしたことがない大人になっちゃった」と嘆く。いや、そんなキョトン顔では悲愴感ゼロ。

 そんな深キョンが高校生にナンパされるもオバサン扱いされるわ、説教しちゃうわ、挙句、その子に東大受験を決意させちゃう役を演じるワケよ。失業と失恋と毒親トラウマで心病むかと思いきや、暢気なゆるふわ女子だったり、急に姉御肌になったり。男性に消極的かと思いきや、突如距離感縮めて謎のボディタッチを始めたり。絶賛迷走中。

 しかも、イケメン男子高校生と東大卒エリート商社マンと元ヤン同級生から思いを寄せられる。「ビリギャル」に幸運でリア充なアラサーの「モテキ」を足して、毒親と非正規雇用という問題をご都合程度にまぶし、人気の中村倫也を投入して誤魔化しました、という中身だ。たぶん、船越の理不尽な情緒不安定を深キョンに分けたら、丁度ええ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年1月31日号掲載

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