三大コンビニが成人誌販売中止の衝撃 現役編集者が語る“古き良き時代”と“危機”

国内 社会

  • ブックマーク

コンビニとは持ちつ持たれつ

 そもそも成人誌は売れていたのか。

「今も成人誌は売れていますよ。確かに90年代の頃のようなバブルと言ってもいい売上ではありませんが、アダルト系の出版協会である出版倫理懇話会の加盟社は、年間ウン億円の売上があります。成人誌の市場は、まだまだ捨てたものじゃない。だからこそコンビニだって、なかなか販売をやめるとまでは結論が出せなかったんだと思います。成人誌は500~1000円程度と、コンビニ商品の中では割りと高額商品ですから、100円のおにぎりよりも店舗としても売上が期待できる。かつ、恥ずかしくて成人誌だけ購入していくお客さんはまずいません。コンビニにとってはおいしい商品なんです」(同)

 確かに成人誌は、他の商品に紛れ込ませるようにして買うものである。男の気遣いと言えなくもないが、コンビニにとっては1冊で2度おいしい商品というわけだ。だからこそ、コンビニと共同作業で成人誌が生まれた時代もあったという。

「それぞれのチェーンで、プライベートブランド(PB)商品が生まれた時代もありましたが、成人誌だってPB商品があったんです。『いま熟女物が売れているから、オタクもこういう企画でどうでしょう?』なんて取次(=問屋)を通じて言ってくるわけです。成人誌は9割方はコンビニで販売されていますから、もちろん乗りましたよ」(同)

 かつては持ちつ持たれつの関係だった。いつ頃から変わってしまったのだろうか。

「成人誌が爆発的に売れたのは、80年代後半から90年代末にかけてでしょうね。KKベストセラーズの『ザ・ベストMAGAZINE』は50万部近く売れていました。あの女優の顔に水をぶっかけた瞬間の表紙が名物でした。“男性誌”と謳っていましたが、中身は色気満載の成人誌でしたよ。また、英知出版の『デラべっぴん』は70~80万部売れたこともある。当時のグラビアは特写、オリジナルで撮っていました。泊まりがけでロケに行ったり、贅沢なものでしたよ。その代わり記事も丁寧に作っていました。各社、成人誌のみならず、ファッション誌や車雑誌などにも手を広げましたが、それでも成人誌をやめようとしなかったのは、それだけ儲かったからですよ。最初に危機を感じたのはDVDで、AVが発売されるようになった頃ですかね。『雑誌などすぐになくなる』と言われていましたが、この業界はしたたかです。AV会社と組んで、撮影時のポジを借りて誌面を作り、おまけのDVDまで付録にして売り出した。これによって2~3人の編集者で1冊作れるようになってしまった。ノウハウさえあれば1人でもできますから、お金も掛からない。何よりAVは、写真よりも過激ですから、そこから提供される素材で作られる成人誌は、より過激になった。我々としては、経費も掛からず、かえって儲かるという構造が出来上がったんです」(同)

 そこにネットという時代が到来する。

「2000年以降でしょうか、その頃には美少女路線ではなくなった。アキバ系もいれば、熟女系、人妻系もあって、細分化してきたんです。アキバ系はネットに親和性がありましたが、熟女系はそうでもなかった。というのも、美少女を成人誌で見て育った読者層がそのまま年をとって、10代の美少女ではリアリティが持てなくなって、熟女・人妻系に進んでいるわけです。たとえ3段腹でも熟女のほうが興奮できるわけです。そうした人たちは、ネットに馴染まない人も多かった。コンビニで販売されている成人誌はAmazonでも買うことはできますが、それほど売れていません。書店もどんどん減っていますし、大型書店には置いていませんからね。ネットでも熟女や人妻は見られるようになりましたが、特に高齢者はワケのわからないところからとんでもない額の請求などされたら怖くては入れません。また、年上好きの若い層もいる。現在、コンビニで販売されている2点留めの成人誌の大半は、人妻・熟女系なんです」(同)

 成人誌をコンビニで購入している読者にとって、今回の決定は残念なはずである。では、なぜ、販売中止の決断に至ったのか。

「我々にも甘えがあったと思いますよ。新宿から風俗店が摘発されて、表面上は安全な街になっているのに、そのすぐ脇のコンビニでは、堂々と成人誌が売られているというのはおかしな状況でした。また、女性の声も大きいですから、コンビニもそうした声には応えなくてはなりません。今回は、“新日本婦人の会”などが、成人誌の全店撤去、販売中止の運動を盛んにやっていたそうですから……」(同)

 平塚らいてうなどの呼びかけで1962年に結成された女性団体で、現在の会長は日本共産党の笠井亮・衆議院議員夫人の笠井貴美代氏が務めている。公式ホームページには、販売中止の要請書がダウンロードできるようにもなっている。

「『性の商品化に反対』と言われては反論できません。ただ、成人誌が性暴力の抑制につながっている一面もあるのではないか。自分で処理すれば、そんな気分などなくなるという男性の性というものも、ちょっと理解してもらえたらなと思うんです。風俗店が摘発されて、今はデリヘルの時代となって、どんどん風俗は地下化しています。成人誌もコンビニでの販売がなくなることで、表面上は嫌なものを見ないで済むことになるのでしょうが、困る方もきっと出てくると思うんですが……」(同)

週刊新潮WEB取材班

2019年2月2日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。