明石市長“火を付けてこい”発言で議論百出 朝のワイドショーは公平に報道したか
報道姿勢に及んだ「スッキリ」
「スッキリ」のMCは、極楽とんぼの加藤浩次とハリセンボンの近藤春菜、そして水卜麻美アナである。そこへ「加藤さん、暴言です!」と言って騒動の説明を始めたのがリポーターの阿部祐二だ。
「兵庫県明石市の市長が職員に対し『火をつけてこい』などと激しく叱責、昨日、暴言を認め謝罪しました。なぜこのような問題が起きてしまったのか、市長と職員、双方に話を聞いたところ、意外な展開を見せたのです」
何やら単純なパワハラではないことを匂わせながら、問題の市長が激昂した音声、一転して会見で平謝りの様子が流れた後、叱責された職員の言葉が読み上げられる。
「個人的にはパワハラだとは思っていません」
暴言をされた本人がパワハラを否定した上に、
「音声にあった叱責の後に、20分以上話し合って和解しています」
「ビビット」とは全く異なる展開なのである。そこに市長への直撃取材が流される。
市長:完成予定の時期が半年過ぎているにもかかわらず、そのままの状況だったので、どういうことなんだ、と。おそらく交渉が難航しているんだろうと、自分なりには思っている中で、そこの(立ち退き対象の)お店の方に話を伺ったところ、「交渉すらまだ」だと聞いたものですから……。人が死んでいる交差点で、また死亡事故が発生したことによって、安全な交差点ということがテーマだった。完成予定時期を過ぎている状況に対して、感情的になってしまいました。
市長に経緯を語らせた上で、さらに叱責された職員の言葉が入る。
「言われた言葉は不適切だと思う。ただ、市長の街づくりに対するアツい思いから出たものだと、当時も今も思っています。個人的にはパワハラだとは思っていません。音声にあった叱責の後に、20分以上話し合って和解しています。(立ち退き対象に)まだ金額の話をしていなかったのは事実ですが、権利関係がややこしい土地だったので時間がかかっていました。しかし、予定通りに進まなかったのは、自分に責任があると思っています」
意外にも、市長への恨み節どころか、反省しているのである。同じ人間に直撃しながら、こうも内容が変わることに唖然とする。そして番組は、大きな疑問を投げかける。では、あの音声は、誰が録音し、なぜ今になって公になったのか、ということだ。ここで番組は、前日の会見でのやりとりに移る。
記者:選挙を控える中で、この時期に出てきたことも含めて具体的な思いは?
これに対して市長は「自分の責任」と繰り返す。
記者:それでも続投される理由は何ですか? 許されないことだと認識しているのであれば……。
市長:(しばらく沈黙し)明石の街を、確かにこういう状況で、私ですので、市民の判断ですが、引き続きこの街のために、精一杯、頑張っていきたいと思っているからです。
あれ、「ビビット」の女性レポーターが問い詰めていた質問は、直前に行われた会見の質問をなぞっただけか――。ここでMCの加藤が発言する。
加藤:第一報が出たとき、被害に遭われた方が本当に耐えきれなくて、テープを出したのかな、と僕は思ってしまったのだけど、取材をすると、本人がテープを出したわけじゃない。本人は「パワハラだと思ってない」と発言したということです。
阿部:すごく重要なことだと思うんですね。叱責されたという職員に取材してみると、「流出データは最初の5分だけ」だと言うわけです。それ(5分)で終わったかと思いきや、「まだまだ話は続いたんだ」と。「(その後の)20分以上に関しては、何も明るみに出ていないじゃないか」と、その方は言うわけです。それで、あの後の会話はどのようなものだったかと聞くと、丁寧に説明したら市長は「わかった」と「じゃあ頑張ってやってくれ」と。どう思います? これ話し合いは、普通の話し合いで終わっているわけです。その後に、この件に関して和解したのではなくて、この日のうちに、この瞬間に、2人の間にはわだかまりもなく、話し合いは済んでいるんです。
加藤:今でも市長と職員の関係はいいんですか?
阿部:いいですね、同志です。
加藤は近藤春菜に振る。
近藤:上澄みの部分だけで聞くと、「またパワハラか」「また暴言か」というくらいでしたけど、やっぱり阿部さんの取材でお話を聞くと、全然違うというか、ハラスメントって受け手がどう感じるかがとっても重要で、全然違った事実が出てきた……。
コメンテーターのレタスクラブ編集長と、水泳元日本代表の松田丈志もこれに賛同。
松田:暴言を吐いたこと自体はダメなことと思いますけど、暴言を吐いている5分だけを切り取って音声が出てきているということなので(中略)、5分だけ出すというところに多少の悪意というか、そういうものを感じます。
加藤:多少の悪意、なるほどね。我々もこういう報道をする場合、やっぱりしっかり取材してやらないと、意味が全然違ってしまうことがあるということですね。
裏番組「ビビット」への当てつけのようである。さらに……、
加藤:今、ホントにパワハラとかセクハラ、被害に遭われている方は絶対に訴えるべきだと思います。みんなに知ってもらって、それは酷いとわかってもらったほうがいい。でも反面ね、誰かの悪意によって、それを利用している、こういったパワハラみたいなものもあるということを、我々は知っておかないと。全てのパワハラはあっちゃいけないんだという、杓子定規で考えてしまうのは、もう違う時代に来ているのかとも感じる。
阿部:そう思います。一部を抽出するということに、我々は敏感でなければいけないと思います。行間であったり、前後関係であったり、これを見ていくのが、我々の取材ではないかと思います。
市長と叱責を受けた職員、同じ2人に取材しているのに、この違いは何だろう。「とくダネ!」と「モーニングショー」は、2人に取材もしていないのだ。では何を報じたかといえば、気になる音声データの続きである。だが、ここでもまた、報じ方に違いがある。
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