珍味「フグの白子」ばりの美味を誇るムシの名前は?
近年ドラマ化された作品だけでも『孤独のグルメ』『勤番グルメ ブシメシ!』『極道めし』等々、今では一大ジャンルとなったグルメ漫画。
その先駆的存在が『美味しんぼ』だったのは間違いない。特に初期には印象深いエピソードが多く、「フグの白子」を巡る山岡士郎と海原雄山の親子対決もその一つだ。
細かいストーリーは省略するとして、このエピソードで示されたのは、「フグの白子」と「仔羊の脳ミソ」「仔牛の脳ミソ」の味はとてもよく似ている、というウンチク。気持ち悪いと思いつつも、脳ミソ料理に思いを馳せた喰いしんぼもいたことだろう。
もっとも、いかに「濃厚でまったりとした味わいが」などと言われても「脳ミソ」には抵抗がある向きも少なくないだろう。
もしもいま、同じテーマで山岡・海原対決が行われた場合、もしかするともうひとつ、別の意外な食材が「フグの白子」の代わりとして提案されるかもしれない。
「オオスズメバチ」である。
そんなバカな?と思う方もいるだろうが、昆虫食の第一人者、内山昭一さんは新著『昆虫は美味い!』の中で、その美味を熱く語っている。
「オオスズメバチはどんな味がするのか、と問われると、私はいつも『フグの白子』にたとえて説明する。
オオスズメバチを食べたという記録は、栃木、埼玉、長野、愛知、大分、宮崎などにある。実は私の『フグの白子』発言の由来は宮崎県にある。『スズメバチを食べる』で松浦誠さん(注・ハチの研究者)は、宮崎県西臼杵郡の話として次のように引用している。
『酒の肴としては極上々の由、これを食べると「河豚(フグ)のシラコ」等食べる気になれん。これはある美食家の言であるが、とにかく美味しいものである』」
内山さんによれば、オオスズメバチの中でも、特に前蛹(サナギの前段階・幼虫)の段階が、もっともフグの白子に近いのだという。これを知っていれば、山岡士郎は海原雄山にサナギを喰わせていたかもしれない。
もっとも、こうした昆虫を食べるには専門家のノウハウが必要。最低限加熱はしなければいけない。「そうか美味いのか!」と素人が簡単に飛びついたら大変なことなるのは確実。そもそもうかつにオオスズメバチの巣に近づいてはいけない。
そのへんのスリリングな感じもちょっとフグに似ていると言えるかもしれない。