ボーっと生きてんじゃねえよ! NHKがバラエティ番組で攻める本当の理由
元薬物中毒者やパパ活女子もネタにする
スポンサーの顔色を窺う必要がないNHKは、全局横一線で同じような企画ばかりの民放との差別化を図ろうとしている。その結果、「民放より面白い」というイメージが、徐々に世間に生まれつつあるのだ。
「たとえば、NHK Eテレの『ねほりんぱほりん』という人形劇トークバラエティは、毎回『元薬物中毒者』や『パパ活女子』などの訳ありゲストを招き、赤裸々に語ってもらうのが魅力です。もし、民放で『ねほりんぱほりん』を制作しようとしても、NHKほど時間やコスト、人材を割けないでしょう。さらにスポンサーに迷惑をかけられないため、あそこまで過激な内容にするのは難しいでしょう」
企画だけではなく演出の仕方も、両者には大きな違いがある。
「スマホを見ながらテレビを観る人が増えた関係で、民放各局は視聴率確保のためにさまざまな工夫をしています。画面の四隅にテロップを表示させたり、CMの前後に同じ映像を流したりするという方法です。しかし、これがかえって鬱陶しいと視聴者には嫌がられ、過剰な演出のないNHKを選ぶ人も増えてきています」
一方で、NHKの場合、国民の受信料で制作しているということは、国民がスポンサーということになる。民放同様、スポンサーに気を使った番組を作るのは、当然といえば当然のこと。そうした点から考えれば、「チコちゃん」をはじめNHKの番組が多くの国民にヒットするのも、必然といえるかもしれない。
狙いはあくまで受信料の徴収
NHKがバラエティ番組の制作に積極的になった背景には、今以上に国民から受信料を徴収しようという狙いがあるようだ。
受信料は、振り込みの場合、地上波と衛星放送がセットで2カ月4560円、地上契約のみなら2カ月2620円(2018年11月に月額35円の値下げを発表)。NHKの受信料収入は年間6913億円(2017年)にも上るが、それでもまだ視聴者の2割が未納となっている。
「NHKは今後、テレビとネットの同時配信を予定しています。つまり、パソコンやスマートフォンからの視聴も可能にするつもりです。そうなると、今まではテレビを所持していないという理由で受信料を支払っていなかった人も、手持ちの電子機器がネットに接続できさえすれば、受信料支払いの義務が生じる可能性が高まります」
これまでNHKのスタンスとしては、ワンセグチューナーが入っているスマホは、受信料徴収の対象としてきた。しかし、ネット配信が始まることで、ワンセグ機能のないiPhoneなどの所持者もそれに含まれるようになる。
同時配信の計画はすでに総務省も容認し、2020年の東京五輪に合わせて実施される見込みだ。これらのNHKのやり方にネット上では反発の声が多数上がっているが、NHKはこうした抗議を見越したうえで、十数年前からバラエティ番組の制作に注力してきたという。
「NHKはネット上で発言力がある若い世代を非常に気にしています。批判の声が増えて署名運動やデモなどに発展したら、同時配信の計画が白紙になりかねないからです。今の20歳以下の人はNetflixやHuluなどの有料動画配信サービス、つまり“料金を支払う価値がある”と自分で選んだコンテンツにはお金を出すが、そうでないものには一銭も払いたくないという感覚が強い。そのため、若い人がNHKを選びたくなる番組、つまり若者向けのバラエティ番組の制作に精を出しているんです」
同局にとって、敵に回すと一番厄介な相手を自陣に取り込む長期作戦が、バラエティ制作だった。そして、徐々にではあるが、NHKの目論見通り、バラエティ番組が若者をはじめ幅広い層に支持され始めているというわけだ。
ようやく“視聴者が観たい番組を作る”という方向に舵を切ったNHK。もしその歩みを止めることがあれば、スポンサーである国民は、「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と声を大にして叱るべきかもしれない。
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