「羽生無冠」で乱世になった将棋界 “コンピューター棋士”第3世代が台頭の是非

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優等生が増えた

「彼らが代表する世代は、将棋とコンピューターとの関わりにおいて、第3世代と言えます」

 とは、先の田中氏である。

「第1世代は90年代。これまで手書きの棋譜をコピーし、それを基に実際に駒を並べていたのが、コンピューターに棋譜を入力することによって、圧倒的多数のデータをすぐに研究に役立てられるようになったのです。第2世代は00年代。ソフトの性能と、インターネットの通信機能が大幅に向上し、自宅にいながら24時間365日、いつでも強いソフト相手に研鑽が積めるようになりました」

 それに次ぐのが、10年代からの第3世代で、先に述べたように、ソフトが最善手を示してくれる時代に。現在、若い棋士のほとんどは、濃淡の差こそあれ、これを研究に活用しているという。まだプロ入り前の三段以下でも、将棋ソフトで流行った手がすぐに流行する有様。早ければ小学生の頃から、ソフトを主体に研究する嫌いもあるというが、これが行き過ぎれば、果たしてどうなるのか。何だか、人間の知性の結晶ともされる将棋が、コンピューターの従者となっている感も否めないのである。

「今の棋士の皆さんの将棋は、受験勉強をするのに似ているな、という気がしますね」

 こう感慨深げに述べるのは、御年85歳、現役最長老と言われる観戦記者の高橋呉郎氏。70年代から40年以上も将棋の世界を見続けてきた生き字引である。

「今はみなすごい速さで情報が入ってくるから、勉強することがあまりに多いし、そうしないと周りに追いつかない。その上、AIにお伺いを立て、同じような研究をしているから、似たような勉強家、優等生が増えている気がするんですよね。もちろんそれで強くなっている部分もあると思うんだけど、その分、昔のように、存在感や個性あふれる棋士が少なくなっているのかもしれません」

 確かにかつての棋界には、「大山の受け」にしろ「桂馬の中原」「谷川浩司“光速の寄せ”」にしろ、個性豊かな棋風が。加えて、加藤一二三・元名人のような、存在感抜群の棋士もいたが、それらはまた生まれるのか。

「私も大山先生と盤を挟み、必死に研究したものです」

 と振り返るのは、当の加藤元名人である。

「膝を突き合わせる中で、技術だけでなく、さまざまなことを学んできた。将棋は人と人との知恵比べです。もし若い世代がコンピューターに頼り過ぎているとしたら、寂しく思えますね」

 将棋界に久しぶりに現れた「乱世」。それを再び統一するのは、誰か。願わくば、その覇者の棋風が、AIそのものとならぬことを……。

週刊新潮 2019年1月17日号掲載

特集「『羽生無冠』で乱世になった将棋界の悪い初夢」より

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