「2期目」強行突入ベネズエラ「マドゥロ大統領」に立ちはだかる「国際包囲網」

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 1月10日、世界が注視する中で、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権が新たに2期目(任期2025年まで)に突入した。昨年5月、野党の統一候補者を排除して、前倒しで大統領選を強行し、再選。その結果を認めない国際社会に反発が広がる中、政権の国際孤立を際立たせる形での続投となった。

集まった顔ぶれ

 就任式に国家の元首が出席したのは、中南米ではボリビア(エボ・モラレス大統領)、ニカラグア(ダニエル・オルテガ大統領)、キューバ(ミゲル・ディアスカネル議長)、エルサルバドル(サルバドール・サンチェス大統領)の4カ国で、カリブではセントビンセントおよびグレナディーンとセントクリストファー・ネビスの2カ国。

 かつてのファラブンド・マルティ民族解放戦線の元司令官を大統領に担ぐエルサルバドル以外は、ベネズエラとキューバが主導してきた反米左派の「ボリバル同盟(ALBA)」の加盟国だ。

 域外からの代表は、ロシア(連邦議会副議長)、中国(農務大臣)、トルコ(副大統領)、イラン(国防大臣)、パレスチナ(外相)と、これまで反米左派の独裁化を強めるベネズエラとの関係を維持してきた国々に限られた。

深まる孤立

 反対に、2期目のマドゥロ政権に対する国際包囲網は着実に広がっている。

 前回の選挙結果の正当性を認めず、民主回復と人道支援の受け入れをベネズエラ政府に迫ってきた「リマグループ」の14カ国(ペルーはじめカナダやブラジル、メキシコなど)は、就任式に先立つ4日、ペルーの首都リマで外相会議を開催し、予想された通りマドゥロ大統領の2期目を承認しないとの声明を発表し、就任式には代表を送らないと決定した。

 ただ、グループの主要メンバーであったメキシコは、アンドレス・マヌエル・ロペスオブラドル左派政権の誕生で方針転換をし、声明には署名せず、14カ国で歩調を合わせてきた同グループから距離を置くことになった。就任式には、内政不干渉の立場からグループに参加していない左派政権のウルグアイと同様、現地の臨時代理大使を出席させる最小限の対応をとっている。

 またアメリカ、カナダを含む米州の地域協力体制の要「米州機構(OAS)」は、就任日の10日にワシントンの本部で臨時の常設理事会を開催し、1月10日以降のマドゥロ政権の正当性を認めないとの決議を採択した。決議案はアルゼンチン、チリ、コロンビア、コスタリカ、ペルー、パラグアイのリマグループ6カ国とアメリカ政府によって提出され、賛成19、反対6、棄権8で採択された。

 マドゥロ政権に対しては、対話を通じ、国際監視の下で公正かつ自由が確保された新たな大統領選挙の実施、政治犯の釈放、人道支援の受け入れなどを求め、また加盟34カ国(冷戦下での除名が解除された後も復帰していないキューバを除く)に対しては、決議に基づき外交などの必要な措置をとり、早急にベネズエラの民主的秩序の回復につなげるよう要請している。なお、ここでもメキシコは棄権に回っている。

 すでにリマグループ諸国は前回の選挙を受けて、大使召還などベネズエラとの外交関係を縮小してきたが、決議に賛成した各国は新たな外交措置を講ずる検討に入っており、パラグアイのマリオ・アブド・ベニテス政権は即日、大使館の閉鎖を宣言するに至った。 

 今後、外交関係の断絶を含め、ベネズエラの孤立がどこまで深まり、政権に具体的な圧力となって効いていくかが焦点である。

野党議長が「暫定大統領」宣言をしたが

 こうした政権に対する国際的圧力の高まりを受け、ベネズエラ国内でも反発が広がっている。

 2015年の選挙以降、野党が多数を占める国会は、マドゥロ大統領の正当性を認めず、新たに議長に就任したフアン・グアイド氏が11日、政権移行に向けて一時的に暫定大統領に就任する用意があると宣言した。グアイド議長は、同時にマドゥロ大統領を「権力の簒奪者」と非難し、その正当性を認めない国際社会に謝意を述べるとともに、軍に対しては、憲法を順守し、政権に対して決起を呼びかける演説を行った。

 マドゥロ政権は、国会の決議をことごとく無視して三権分立を崩し、新たに翼賛的な制憲議会の設置によって国会の権限を無力化してきたが、国会も昨年の大統領選挙の結果を認めておらず、大統領就任式の宣誓も憲法で定められた国会ではなく、最高裁で行われた経緯がある。

 野党としては、政権の違憲性と、国会の持つ権力の正当性を国際社会に訴え、内外の支持を得ることで、マドゥロ政権後の民主化移行へのイニシアティブを示そうとしたのである。

 1月5日、OASのルイス・アルマグロ事務総長はグアイド氏が国会議長に選出されるにあたり、民主的立憲秩序と基本的人権の回復にあたってグアイド議長と国会の担う役割を支持する声明を発している。またアメリカ国務省も12日の声明で、議長のイニシアティブを支持する姿勢を示した。

 だが、OASの決議では、国会に正当な権威を認めつつも、権力の移譲を求めるところまでは踏みこんではおらず、あくまでも国民対話を通じた和解に基づき、平和裏のうちに公平で自由な大統領選挙を新たに行うことを求めているにすぎない。いまだ加盟国に、国会議長を暫定大統領として認める政権はない。

軍事的な関与も辞さないアメリカ

 また、軍は政権にグリップされており、当面、軍部が政権に対し決起することは考えられない。弱体化した野党にとっては、国際社会の圧力と支援が最大の支えである。

 一方、政権側は国内での有利な立場を活かし、再度、対話の姿勢を見せつつ、中国、ロシアなどの支援をテコに政権の延命を図ることになろう。

 OAS決議は、話し合いによる自由公正な選挙のやり直しによって事態の解決を図ることを求め、軍事的な関与も辞さないとするアメリカ政府に楔を打つ形となっている。

 米国のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、昨年11月のマイアミでの演説で、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアを「専制のトロイカ」と呼び、「民主制度を毀損しており、市民に対する容赦ない暴力を許さない」とマドゥロ政権を厳しく非難。市民への抑圧には、キューバにもその責任があると断言した。

 ベネズエラと国境を接し、100万人に達する難民を1国で抱えるコロンビアの右派・親米のイヴバン・ドゥケ政権と、「ブラジルのトランプ」こと極右のジャイール・ボルソナロ新政権は、トランプ政権とともに軍事的な関与を含め、連携して圧力を加えていくことになるだろう。

 こうした軍事的関与の選択肢を抑えながら、あくまでも圧力と交渉による危機の解決に力点を置くリマグループの他の国々の外交努力が試されている。逆に独裁政権がOAS決議に応えず、暴力的に政権にしがみつくだけであれば、破綻国家の行く末は知れたものであり、他の選択肢の可能性を自ら招くことになるであろう。(遅野井 茂雄)

遅野井茂雄
筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。

Foresight 2019年1月16日掲載

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