FOCUSが捉えた「市原悦子さん」 女優40周年で“多彩な素顔”に密着
【2月23日】
昼から、大田区城南島の倉庫で、3月1日から始まる公演の稽古。俳優座当時からの仲間で、結婚して35年、二つ年上のご主人、塩見哲さんが演出、音楽監督が作曲家の三木敏悟さんの「月に憑かれたかたつむり」(3日まで、新宿スペース・ゼロ)。
皆既月食の間だけ、かたつむりが人間に変身できるという書き下ろしの“伝説”をもとに、歌って踊って笑って泣いて、芝居とコンサートとミュージカルが一緒になった「ショー」のような「パーティー」のような2時間半のステージ。全員が顔を揃える機会が少なく、稽古場には緊張感が漂う。
声を荒らげる演出家の指示に「すいません」「きのうもダメだったね」「ごめんなさい」と、どこまでも素直な女優。
この日、写真家の駒澤琛道さんが陣中見舞い。高校時代に長野の映画館で彼女の映画を見、題名も覚えていないが「その声が心に残り」「こんな素晴らしい声を出す人と会ってみたい」と、20年前、駒澤さんが35歳の時に「写真を撮らしてほしい」と申し込んだ。「私がおばあさんになるまで、撮ってくれますか」と心が通い合い、3年目に写真展。10年目に写真集を出版。新聞の書評で「ここには128人の市原悦子がいる」と絶賛された。むろん、写真点数は128枚。それからまた10年がたって、ドキュメントの写真集「市原悦子 変化自在」(春秋社刊)が出来上がったばかりなのだ。
6時すぎからの夕食は、スタッフが作ったカレーライス。
「みんな、ホントに芸熱心でしょ。カレーに見向きもしない」「お芋1個、人参1個」と人数分を考え、ブルーとピンクのドラえもんの食器にせっせと盛り付け、「お給仕って、楽しいね」。
ストーブを何個つけても冷える、倉庫での稽古が終わったのは、9時半近くだった。
家での食事は「疲れていないほうが作る」そうだ。両方疲れた時は外食となり、夫と妻、演出家と女優の関係は、「渾然一体、臨機応変」。子供はいない。
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