FOCUSが捉えた「市原悦子さん」 女優40周年で“多彩な素顔”に密着
【2月20日】
NHKで雑誌の取材を受けたあと、1時には「秀吉」の母なか役に着替える。
この日の収録は、信長がライバル光秀の坂本城へ行ってしまい、しょげる秀吉に母がハッパをかけ、共に城へ乗り込む場面。信長の前で二人で田植唄を歌い、踊り、その珍妙な踊りに、信長も機嫌を直す。
本番前の控室。秀吉役の竹中直人さんと、「(踊りは)アドリブでやろうね」と、簡単な打ち合わせ。ついでにってわけじゃないけれど、「きれいな脚ねぇ」と、秀吉の脚をなでなでしちゃう。
母なかの腕は、みごとに汚れている。たった今まで、丹念に汚していたところなのだ。
「現代人って、ホントの泥を塗っても、きれいになっちゃう」、だから、腕でも「いろいろメチャクチャ、ムラムラに塗るの」だそうで、ロケで熱心に汚していたら、爪の間に泥が入ってしまった。すると、そのエピソードは、お百姓さんらしくするために、爪の中まで泥を入れた女優の工夫として伝えられてしまう。「泥が入っただけですよ」と微笑むが、ホントは計算だったことを悟られたくないための微笑みのようにも思えて……。
かつて、この女優を「美人にあらず、不美人にあらず」と評した女性の作家がいた。また、そのトーク番組などを何回見ても「私生活が見えない女優」と指摘する評論家もいる。
「家政婦」や「おばさん刑事」「バスガイド」「実録犯罪」シリーズなど、ナレビの2時間ドラマのヒロインを演じるたびに、視聴者はそこに彼女の“地”を見たと思うらしい。あまりのリアリティーに、その「どれもが地ではないのか」と。
いかにも器用そうに見えるが、実は「不器用なの」だそうだ。どれもが、楽に、自然に演技しているように見えるその底力の部分には、人知れぬ豊富な稽古量がある。猛練習するイチローが、「体が求めてるから」とサラリと答えるのと同じだろう。
楽に仕事を消化しているように見えたマネージャーが、つい仕事を増やしすぎて、叱られたというエピソードもあるほど。
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