「いきなり!ステーキ」と「焼肉ライク」が“代理戦争” その戦場は「幸楽苑」

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関係者は注目の1年

 一体、「幸楽苑」の狙いは何なのか、前出の千葉氏に解説を依頼した。

「『幸楽苑』は不採算店舗に悩んでいましたが、その解決策として不採算店舗を単にスクラップするのではなく、現在、最も人気の外食チェーンのFC店舗にしてしまうという思い切った戦略に打って出ました。これには驚きましたが、取材してさらに感心したのは、『幸楽苑』の既存店で来客数が上昇したことです。例えば、静岡県で1店の『幸楽苑』を『いきなり!ステーキ』に変えたところ、3キロ離れた『幸楽苑』の客数も前年比38%増になったんです」

「焼肉ライク」も勢いのあるうち、可能な限り出店を果たしたい。だが、自社だけでは人員も予算も限られる。さらに郊外店のモデルは構築できていない。

 そこで助っ人として、「幸楽苑」に白羽の矢が立てられた。「幸楽苑」にとっては、魅力的なFCの契約先が増えるのは自社の利益になる。もちろん異存はない。

「現時点で『焼肉ライク』の店舗は都心部に限定されており、比較的、狭小な店舗を効果的に活用したビジネスモデルになっています。一方の『幸楽苑』は、ロードサイドや郊外型店舗の設計にノウハウを持っています。これから2社は協同してテーブル席や座敷といった郊外店のデザイン、メニューの開発に取り組み、急ピッチで出店していく計画のようです」

 これは「いきなり!ステーキ」にとって脅威以外の何ものでもない――。こう指摘するのは、経済担当の雑誌記者だ。

「日の出の勢いである『焼肉ライク』は、がむしゃらに出店するしかありません。破竹の快進撃を目指すことは、経営戦略として合理的でしょう。一方の『いきなり!ステーキ』は、少なからぬ専門家から“成長の限界”を指摘されています。最大のデメリットは、両社のFC店の経営状況が、『幸楽苑』を通じて開示、比較されてしまう可能性があることです」

 幸楽苑ホールディングスは、東証一部に上場を果たしている。正確な経営情報を開示する社会的責務を負う。

「『幸楽苑』が持つ『いきなり!ステーキ』と『焼肉ライク』の経営状況も、開示対象に含まれるはずです。仮に積極的な広報が控えられたとしても、株主や記者の質問には回答する必要があるでしょう。私たち記者にとって、こんな形で2社の実力が比較できることになるとは思ってもみませんでした。今年19年は、『幸楽苑』を舞台にした比較記事が、経済紙や経済誌を賑わすと思います」

 もちろん、「いきなり!ステーキ」にとって最悪のシナリオは、「焼肉ライク」の“勝利”が明らかになってしまうことだ。

「『いきなり!ステーキ』が来客数や売上で『焼肉ライク』に水をあけられれば、先日の東洋経済より厳しい論調の記事が書かれるかもしれません。また、万が一、『幸楽苑』が『いきなり!ステーキ』に転換した店舗を、さらに『焼肉ライク』に変えるようなことが起きれば、業界に衝撃が走るでしょう」

“代理戦争”という歴史概念がある。冷戦下、アメリカと旧ソ連が、直接、戦端を開くことはなかった。その代わりに、朝鮮戦争やカンボジア内戦、アフガニスタン侵攻などで双方が介入。両超大国の“代理”としての戦争が行われたことを指す。

 今後、「いきなり!ステーキ」と「焼肉ライク」は、ライバルとして全国でしのぎを削ることになるだろう。だが、その“前哨戦”が、「幸楽苑」という飲食チェーン店の中で、まさに“代理戦争”として争われるのだ。これは前代未聞だろう。

 そして経済担当記者は、「今のところは『いきなり!ステーキ』が不利だと見ています」と断言する。

「今年も200店の出店を目指すのは無謀すぎます。経済指標は好景気を示すとされていますが、実質賃金は低迷。デフレは改善していません。我々庶民の懐事情は、まだまだ厳しいものがあります。そんな経済状況で、『いきなり!ステーキ』の客単価は高すぎます。一方の『焼肉ライク』は、まさにデフレ経済でヒットするタイプの店です。どちらが人気を呼ぶかは言うまでもありません」

 だが、この見解に真っ向から対立するのが、前出の千葉氏だ。「焼肉ライク」の成功だけでなく、「いきなり!ステーキ」も“横綱相撲”をとる可能性があるという。「都心でしか成功しないビジネスモデル」という下馬評を覆した実績を、その証拠として挙げる。

「業態は生き物です。『いきなり!ステーキ』も、きめ細かくサービスを見直し、顧客をつなぎ止めています。例えば、2014年には『肉マイレージカード』というポイントカードを導入し、リピーターの確保に寄与しました。現在は、ランチの『CABワイルドステーキ』をディナー帯でも提供する店舗を増やしており、売上が増加しているそうです。『焼肉ライク』が今年も店舗数を増やしたという状況だけで、あたかも『いきなり!ステーキ』が窮地に追い込まれるかのような見解は、あまりに短絡的でしょう」

 専門家の間でも見解は分かれている。いずれにしても今年19年は、両社の将来を占うデータが「幸楽苑」から随時、開示される。業界関係者だけでなく、ビジネスパーソンなら、参考のため必読の1年になるかもしれない。

週刊新潮WEB取材班

2019年1月15日掲載

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