〈鼎談〉ケニー・オメガ×マキシマムザ亮君×糸井重里 第7回 それぞれのスタイルがある。
平成の終わりを目前に、みなさんはどんな「忘れられない記憶」をお持ちだろうか?
新日本プロレスの現IWGPヘビー級チャンピオン(2019年1月1日現在)のケニー・オメガ選手と、ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」のマキシマムザ亮君さんが揃って挙げるのは、平成元年に任天堂より発売された伝説のRPGゲーム『MOTHER』。いまもなおカルト的な人気を誇るシリーズのゲームデザインを手がけたのは、コピーライターの糸井重里さん。
プロレスラーとして、ミュージシャンとして、『MOTHER』の世界観に強い影響を受け続けてきたというお2人が、30年越しの想いを抱えて糸井さんと初対面! ひとつのゲームを語るうちに蘇る、平成を駆け抜けてきたそれぞれの葛藤、そして勇気。
2018年12月に「ほぼ日刊イトイ新聞」で企画・掲載されたこの異色の座談会(全8回)を、お正月スペシャルということで特別に「デイリー新潮」からもお届けします! では第7回〈それぞれのスタイルがある。〉 お楽しみください。
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亮君:ケニーさんがプロレスの試合をするときって、じぶんのパフォーマンスがいちばんなのか、お客さんの反応がいちばんなのか、なにをいちばんに考えるんですか。
ケニー:それは最近、ちょっと変わってきました。最初はじぶんのパフォーマンスだったり、会場にいるみなさんの反応でした。だけど、いまはSNSやストリーミングサービスがあるから、会場にいる人たちだけじゃなく、会場にいない世界中のファンのことも考えるようになりました。
亮君:ああ、なるほど。
ケニー:例えば、ビックマッチのとき、会場の中の人がぜんぶ理解できないときがある。だけど、そこをちょっと犠牲にしてでも、世界の人がその試合をたのしめるようにします。すごくむずかしいことだけど、最近そういうことも大事になりました。なんでそうなったかというと、新日本プロレスをもっと世界的なブランドにしたいからです。それをちゃんと考えないといけない。みんなそれに向けてがんばっているし、どんどんレベルアップしています。
糸井:いまのはぜんぶチームプレーの話ですね。
ケニー:そうです、チームプレーです。いままではそれぞれの団体に、それぞれのスタイルがありました。いまの新日本プロレスは、そのぜんぶのスタイルがあります。ルチャリブレも、ストロングスタイルも、ケニー・オメガっていうオリジナルスタイルもある。そういうのがぜんぶ集まっているから、すばらしいプロレスになります。そうしないと世界のファンには注目されない。いまは、それを見せていくことが大事です。
糸井:「なにを守るのか」「なにが好きなのか」をそれぞれがちゃんと持ってないと、結局なにがしたいのかわからなくなって、全体が宙ぶらりんになってしまいます。ただ、バンドはもっと自由なものだから、そういうのは逆に難しいかもしれないね。
亮君:いま、ぼくは半分がバンドで、あとの半分は裏方のことやビジネスのことを考えないといけない立場なんです。
糸井:そうなんですね。
亮君:もちろんステージは全力でやるし、たのしみに来てくれた人に「あれ、きょう声出てないな」「なんか力入ってないな」とか思われるのは絶対イヤだから、当然そういうプロ意識はあります。でも、そういうこと以外は、ぜんぶ仕事にしたくないタイプなんです。ライブのときでも、奥さんがこどもに「パパが仕事に行くよ、行ってらっしゃいは?」とか言うんだけど、「いや、仕事じゃねーから!」って(笑)。
ケニー:(笑)
糸井:いまの話で思い出したのは、ぼくには歳がほとんどいっしょのミュージシャンの友人が2人いて、ひとりは前川清さん。彼は亮君さんと真逆のタイプで、ぜんぶが仕事だって言う人。歌なんか好きじゃないし、できれば歌いたくない人。でも、彼にとっては歌が仕事だから「イヤだけど一生懸命やります」って言うんです。そして歌はもう、とんでもなく上手い。
亮君:(笑)
糸井:で、もうひとりは矢沢永吉という人。この人はいまでもじぶんのコンサート映像を見ながら、「ああ、矢沢、最高だよねぇ」って言う人。すごく若いときにつくった曲でも「この曲、やっぱ最高だね」とか言っちゃう。本気でそう思ってるし、じぶんの歌に本気でうっとりしています。
亮君:両極端なふたりですね(笑)。
糸井:うん(笑)。そんなふたりを側で見ていると、両方ともたいへんなところはあるけど、なんか、ふたりともそこに至るまでに、いろんな道を歩いてきたんだなあ、と思うんです。だから、ふたりを見ていると、道の途中を歩いているようなときって、なんだっていいのかなあって。ぼく自身も仕事だっていって、がんばることはしてこなかったタイプです。だけど、どこかで事故が起きちゃいけないみたいなことを含めると、「仕事」という概念を入れていかないと、やっぱり守れないものが出てくるんです。チームプレーになってくると、乗組員の家族のことまで、ぼくのところに関わってくるわけだから。だから、そこは引き受けなきゃなって思う。その一方で、ぼく個人の良さがなくなってしまっては意味がないわけで。
亮君:ああ、ちょっとわかります。いま、ぼくらのバンドって、ライブでのチケット代だけじゃなくて、じぶんたちでつくるグッズもけっこうな収入源になっています。みなさんがいっぱい買ってくれるから、それもすぐに売り切れちゃう。それってすごくありがたいことなんですが、一方で「俺らは服屋じゃねんだよ!」という気持ちもあって。
糸井:うん。
亮君:グッズはあくまでライブを見てくれた人へのお土産だから、もしそれに本気を出しちゃったら、ロックバンドはかっこ悪いと思うんです。だから、まわりから「こんなに売れるならもっとつくれば?」って言われるんだけど、かたくなにぼくが断っているんです。もしそれでいっぱい儲かったら、ぼくが金勘定をはじめちゃいそうで。
糸井:それはぼくもそうでしたよ。つまり、金勘定すればそれはそれで得意だと思うから、そっちに真剣になっちゃたら、じぶんの力の使い道をまちがえる気がしたんです。だから、金勘定はずっとしてなかったんだけど、チームでやるようになってからは、そんなこともやらなくていいようになったんです。それこそ永ちゃんだって、タオルが何億円も売れてるからこそ、じぶんたち専用のスタジオが持てるわけで。グッズをたくさんつくりたくない理由が「次をつくりたいから」だったらわかるけど、「それが仕事になるのがイヤ」という理由だったら、そのTシャツ部門のことは、一回だれかに任せてみてもいいんじゃないかな。それは、じぶんが好き勝手言うためにもね。
亮君:うーん、なるほど‥‥。
糸井:ぼくもこんなえらそうに言ってますが、チームでやることを考えはじめたのって、ずいぶん歳を取ってからなんです。ある意味、ひとりで決められるというのは、いちばんたのしいことでもあったし、命知らずって言われてうれしい時代もあるじゃないですか。でも、命知らずっていうのは、じぶんの命だけじゃなくて、他人の命も粗末にするってことだから、それはやっぱりダメだと思う。やりたいことがちょっとずつ変わっていくように、そうやってぼくの中の考え方も、すこしずつ変化していったんだと思います。
(つづきは明日配信です)
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