ファーウェイ問題から考える通信の「歴史認識」

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 中国の通信大手ファーウェイ(華為技術)の副会長、孟晩舟がアメリカの要請を受けたカナダ当局に逮捕されてから、ひと月が過ぎた。容疑は「イランとの違法金融取引」。すでに保釈されたとはいえ、孟晩舟はいまだカナダに留め置かれる身であり、これに応じてか、中国当局は中国本土でカナダ外交官や実業家の拘束を断続的に続けている。

 ことの帰趨については、捜査の行方を見守るしかないが、ビジネスシーンにおいてはそんな悠長なことは言ってはいられない。何しろ2020年には本格利用が始まる高速通信、すなわち「5G時代」を迎えるにあたっては、もはや待ったなしの状況である。

 現在、通信技術については、近年急速に成長している中国のファーウェイが5G時代の盟主となるともいわれている。気が付けば質、量ともに中国が世界を席巻していたのである。これに対し“王者”アメリカが「強権」を発動して、ファーウェイの抑え込みに動いたというのが一般的に解説される“事件”の構図である。直接の容疑ではないものの、ファーウェイを負の側面でクローズアップすることで、世界的なファーウェイ締め出しを図ったアメリカ。この背景には米国内の対立、すなわちトランプと習近平の急接近をこころよく思わないネオコングループの策動があったと指摘する情報もあるが、この議論に立ち入らずとも、通信を巡る米中の覇権争いが、いままさに展開していることは、誰もが感じるところであろう。

通信を支配するということ

 アメリカが恐れる中国の覇権。その中心にあるのが中国製の通信機器、設備利用の問題である。通信機器、設備を中国に委ねるということはどういうことなのだろうか。よく指摘されることでいえば、ファーウェイ(=中国)が通信設備に情報略取のための“仕掛け”を施す恐れである。少々乱暴な説明であるが、様々な情報やデータベースをファーウェイ製品経由で窃取されてしまうという危険性である。

 このことは、安全保障はもちろんのこと、ビジネスでも対立するアメリカにとっては、脅威以外の何ものでもない。さらにいえば2013年のスノーデン事件で明らかになったように、中国の機器を用いることはアメリカが仕掛けてきた諜報網に綻びが生じることでもある。アメリカは、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと協力し、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる強力な通信傍受体制を築いてきた。伝送路などの通信技術にしても戦後70年、インテルサット衛星システムやインターネットなどで常に世界の通信を支配してきたアメリカにとって、中国の台頭はもはや放置しておけない事態なのである。

 また、情報の略取という視点を外したとしても、通信市場を席巻してきたアメリカにとって支配の喪失は経済損失とともに、屈辱以外の何ものでもないだろう。

 とはいえ、このような事態を米中以外の第三国、こと、われわれ日本はどう捉えればよいのだろうか。

 もちろん、安全保障上アメリカの同盟国である日本はアメリカに肩入れせざるを得ないのは致し方のないことだろう。また中国によるサイバー攻撃のうわさも絶えず、証拠こそないが通信機器に仕掛けが仕込まれている可能性は全く排除できるものではない。しかし、単にアメリカに従っていればいいのだろうか。

 通信は、19世紀に登場したときから安全保障上の問題をかかえていた。伝送路を支配できれば、その中を流れる内容を傍受可能となり、どこの国が伝送路を支配するかは各国の重大な関心事であった。19世紀後半から第1次世界大戦までは、英国が覇権を握っていた。そして第2次世界大戦後は、英国などとの協力のもと主要ケーブルを敷設し、インテルサット衛星を主導したアメリカが覇者となった。アメリカはファイブ・アイズを駆使し、東側諸国の情報を収集し、冷戦後は、同盟国を含めた経済情報を傍受していたと言われている。今世紀初頭、欧州議会が、アメリカ、イギリスなど5カ国によるエシェロンにより、産業スパイ活動を行っている可能性があると警告を発したことを覚えている人も多いだろう。

 したがって、いくら日米が安全保障上の同盟関係にあるとはいえ、それぞれは「主権国家」であり、すべて手の内を晒すものではないし、ましてやビジネスシーンにおいては同盟など存在しない。競合するアメリカ企業に情報を抜かれてしまうと、それこそ規模によっては国益にもかかわってくるのである。通信である以上、最終的には相手に伝わるのだから、どこかの段階でオープンになる。だからといって最初から漏れることを前提にしていては、用をなさないのである。

 今でこそ海底光ファイバーケーブルはグーグルやアマゾンなど、巨大IT企業が敷設するようになっているが、それ以前は、明らかに国家の戦略的な設備であった。日本のKDD(現在のKDDI)が事実上、国家の指揮下にあったように、アメリカならAT&T、イギリスならC&W(ケーブル・アンド・ワイヤレス)などの“フラッグキャリア”がルート選定にしのぎを削ってきたし、戦前に至っては国家そのものが、それこそ戦争という舞台を背景に「分捕り合い」を行っていたのである。

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