レーダー照射問題、韓国政府の反論動画に海自OBは「2年前の共同訓練と同じ。断交で結構」
「断交状態になっても、海自は困りません」
さて、こうした韓国側の反論や動画を、海自OBはどのような気持ちで受け止めたのだろうか。質問すると、「脱力ですかね」という答えが返ってきた。
「もちろん動画は見ました。何というか……失笑することも困難でしたね。一言で切って捨てれば、明確な反論は何もなかった。全て疑問形で問いかけているだけで、『レーダー照射をしていない』という事実は提示されなかった。現役の海自自衛官も、怒りを通り越して呆れているようです。『いつまで論争をやっているんだ』と、相手にするだけ無駄という声が漏れています」
動画の中には、わずかながら“ファクト”を指摘した部分もある。だが、以下のような事実から、その信憑性も疑わしいという。
「毎日新聞の翻訳によると、韓国側は海自哨戒機の接近に『艦艇乗務員が騒音と振動を強く感じるほど威嚇的だった』と抗議しています。ところがP-1哨戒機は、実は低騒音で知られた国産機なんです。レーダー照射を受けた機が、あれだけの高度を保っていれば、震動どころか騒音と呼べるような音量も感じないはずです」
威嚇のために超低空飛行を行ったという韓国側の主張には、「首を傾げざるを得ません」と顔をしかめる。
「あくまでも推測ですが、哨戒機は通常のパトロール飛行をしていたのだと思います。そして排他的経済水域(EEZ)内で韓国海軍の駆逐艦『クァンゲト・デワン』や警備救難艇を発見、調査や報告、動画の撮影を行っていたのでしょう。それに対し、何らかの理由で、クァンゲト・デワンが嫌がらせのようにレーダーを放射してきた、というのが真相だと思います」
日本でも韓国でも、政治問題として先鋭化してしまっている。だが、海自の現場レベルでは「もう韓国海軍を相手にするのはやめよう」との雰囲気になっているという。
「海上自衛隊も韓国海軍も、第2次大戦後の冷戦構造で、アメリカ海軍の“下請け”として整備された歴史を持ちます。ただ韓国は北朝鮮と対峙しているため、陸軍と空軍が主体です。逆に日本は、旧ソ連と海を挟んで睨み合っていたこともあり、海自の拡充に力を注ぎました。日本の海上自衛隊は今では、米露中に次ぐ世界第4位の“海軍力”を有しています。そして、韓国海軍の幹部は海自で研修を受けているという事実を、ここで指摘しておきたいですね」
海自OBは「韓国海軍の幹部には立派な人格者も多いのです」とした上で、その宿痾は「国内世論をあまりにも気にしすぎること」と指摘する。
その実例を1つ、ご紹介しよう。産経新聞(電子版)は16年1月、「海自と韓国海軍が共同訓練 韓国、『自衛隊アレルギー』に配慮し非公表求める 昨年12月、ソマリア沖」と報じた。
見出しの通り、部隊同士の親善交流を目的として米日韓の3隻による共同訓練を計画したところ、任務が生じた米駆逐艦が参加を中止。日韓の2隻での訓練を実施したため、国内世論を気にした韓国海軍が海自に非公表を求めた、という内容だ。
「一事が万事、この調子です。海上自衛隊と韓国海軍が断交状態になったとしても、我々は困りません。まあ、韓国海軍も困らないんでしょうが、我々の“親分”であるアメリカ海軍としては、海自と韓国海軍が険悪だと東アジア防衛上の重大な支障になります。日米韓の3海軍による協調に問題が生じているのは事実で、中国の海軍力が急激に増強している状況を鑑みると、『韓国、何をやってるんだ』というのが、我々海自の本音です」
実は韓国の「反論」動画には、ちゃっかりと“落としどころ”も提示されているという。終盤に表示される「実務協議を通じて事実確認手続きに入らなければならない」(毎日新聞の動画より)という字幕だ。
「国内世論を異常に気にする韓国海軍は、表向きは海自と敵対するしかありません。あの動画の真のメッセージは、『海自と韓国海軍による実務協議ではレーダー照射を謝罪する用意もあります。その代わり、色々なことを内密にしてください』というものでしょう。ただ、それに応じるかどうかは、海自が決められることではありません。あくまでも政府が、最終的には官邸、つまり安倍首相が決断することです」
朝鮮日報は12月24日、「最悪の韓日関係を示す『レーダー照射』騒動」の社説を掲載した。
社説は日韓両国が「本当に非友好的な対峙状況に発展するかもしれない」と憂慮、「歴史問題や北朝鮮の核問題など当面の懸案とは区別して理性を持って対処する必要がある」と呼びかけた。
だが、その正論に、当の韓国世論がどれだけ耳を傾けるかは、極めて疑問だと言わざるを得ない。
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