〈鼎談〉ケニー・オメガ×マキシマムザ亮君×糸井重里 第6回 先輩クリエイティブ・ディレクターの助言。
平成の終わりを目前に、みなさんはどんな「忘れられない記憶」をお持ちだろうか?
新日本プロレスの現IWGPヘビー級チャンピオン(2019年1月1日現在)のケニー・オメガ選手と、ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」のマキシマムザ亮君さんが揃って挙げるのは、平成元年に任天堂より発売された伝説のRPGゲーム『MOTHER』。いまもなおカルト的な人気を誇るシリーズのゲームデザインを手がけたのは、コピーライターの糸井重里さん。
プロレスラーとして、ミュージシャンとして、『MOTHER』の世界観に強い影響を受け続けてきたというお2人が、30年越しの想いを抱えて糸井さんと初対面! ひとつのゲームを語るうちに蘇る、平成を駆け抜けてきたそれぞれの葛藤、そして勇気。
2018年12月に「ほぼ日刊イトイ新聞」で企画・掲載されたこの異色の座談会(全8回)を、お正月スペシャルということで特別に「デイリー新潮」からもお届けします! では第6回〈先輩クリエイティブ・ディレクターの助言。〉 お楽しみください。
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亮君:糸井さんに会ったら、ひとつ聞いてみたいことがあって。
糸井:どうぞ。
亮君:任天堂にはじめて『MOTHER』の企画書を持って行ったとき、すごくコテンパンにされたって聞いたんですが、それってほんとなんですか?
糸井:みんなその話をドラマチックに語るけど、事実はあんがい淡々としていたんです。というのも、ぼくが過剰に「すばらしい!」って言われると思っていただけで、キャロルのときの永ちゃんみたいに「ここで一発かましてやるぜ」みたいな気持ちだったんです。それで「これです!」って見せたら、向こうはふつうのトーンで「ああ、そうですか」という感じで、「うーん、もしこれをゲームにするとしたら‥‥」ってすごく冷静だったんです。
亮君:へぇーー。
糸井:ぼくはそれを見て、ぜんぜんよろこんでないと思ったし、じぶんの無力さに悲しくなって、帰りの新幹線でほんとに泣いたんです。期待が大きすぎたんでしょうね。ゲームの世界では「アイデア」だけじゃなく「どうやって実現させるか」ということも同じくらい大事なのに。あのとき泣くほど悲しんだのは、いまではいい思い出だけど、ぼくもバカだったなあと思います。でも、そのあとすぐにゲーム開発がスタートしたんです。つまり、企画は通っていたんだけど、向こうがあまりに無表情すぎた(笑)。
会場:(笑)
亮君:ぼくがライブをやるとき、生だったらファンの反応はすぐにわかるんです。でも、作品としてCDを出すときって、ほんとうのリアクションがわからない。ぼくらのファンって、みんなちょっとしたことでは、ぜんぜんリアクションしてくれないんです。しかも、ぼくがエゴサーチが嫌いで、ネットもSNSもまったく見ないんです。でも、ただ待ってるだけだと、だれもなにも言ってきてくれない(笑)。
糸井:なやましいねぇ。
亮君:ちょっと前にバンドのスコアブックを出したんですが、ふつうに出してもつまらないから、開けた瞬間の1ページ目のところに「いきなりチン毛」って書いて、チン毛らしいものを1本、テープで貼って発売したんです。
ケニー:(笑)
亮君:出版社となんども相談しながら、「どの毛がいちばんチン毛っぽく見えるか」「低コストで、貼りやすくて、劣化しない素材はどれか」って、ものすごく真剣に相談をして、1冊1冊手貼りしてもらって、1ページ目のチン毛に命をかけたんです。で、いざ発売したら、誰もそこをツッコんでくれない!
会場:(笑)
亮君:ほんとうは「いきなりチン毛かよ!」って言ってほしかったんです。でも、ネットの反応を見るわけでもないので、いつも「たのしかったねー」だけで終わっちゃう。そこがちょっと悔しくて。
糸井:いまの「いきなりチン毛」の話、ぼくが先輩クリエイティブ・ディレクターとして、亮君さんにアドバイスをするとしたら‥‥。
亮君:はい、お願いします。
糸井:ふつうの人は「チン毛かよ!」ってツッコミで使うときの「チン毛」は、あんまり使いたがらないことばなんです。つまり、おもしろいと思っていても、口にするときの抵抗が大きすぎる。もしなにか言うなら「‥‥かよ!」になる。そうなると、みんなは「かよ、だけ言ってもなぁ」ってなるから、結局なにも言わなくなるんです。
亮君:あー、そうか、そうか。
糸井:「チン毛」には、そういうところがある。
田中:糸井さんが真剣に「チン毛」の話を‥‥。
会場:(笑)
糸井:マキシマム ザ ホルモンとファンの関係って、「橋のかかってない崖」に似てると思うんです。ジャンプ力のある人はこっちに来るし、ジャンプ力があればそっちにも行く。橋がなくて、歩いて渡れないスリルがこのバンドのおもしろさだから、それはぜひ活かすべきだと思います。でも、そればっかりになってくると、「なんでもないところ」がなかなか育たない。おもしろさの刺激が心電図のグラフみたいに、一瞬一瞬で終わっちゃいます。ほんとうは山なりのおもしろさが欲しいのに。
亮君:あぁ‥‥。
糸井:だから、ぼくが勝手に思ってるのは、これから「ホルモン」が求めるのは、ビートルズの『ゲット・バック』だと思う。
亮君:ゲット・バック?
糸井:つまり、ビートルズが散々いろんなことをやったあとに、急に原点に戻って、ロックンロールをやったわけです。当時は「えっ、これって先祖返り?」みたいにも思ったんだけど、ああいうのでも十分にうれしいし、ぼくもあのへんの曲が大好きなんです。それってすごくベーシックなものや、平常心でやれるようなことを、どれだけファンがイヤがっても「俺たちはこれが好きなんだ!」と主張して押し通せるかどうかなんです。もしぼくが先輩クリエイティブ・ディレクターなら、「そうやろうか」ってメシを食いながら説得するような気がしますね。とがったフリをしたファンがいなくなっちゃうようなことでも、そろそろやっていくべきじゃないのかなって。マキシマム ザ ホルモンというバンドは、もうそんな時期に入ってるじゃないかって、ぼくは勝手に思っているんです。
(つづきは明日配信です)
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