「私に見破れぬ擬態などない!!」 枯葉や木の枝そっくりな「冬の虫」を探す方法

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「隠蔽解除能力」を向上させた結果……

 その数日後、長野は記録的な大雪だった。交通手段を確保するのさえ難儀するこの日、あえて裏山へ行った。あのトンボがどうしているかを見たくて、そしてその様を写真に撮りたくて。いつもなら家から自転車で15分もかからないその近距離の森へ行くのに、この日は徒歩で1時間半も費やした。膝上まで積もった雪に埋もれながら森へ分け入った私は、そこで氷を全身にまといつつも、先日と同じく凜として枝にしがみつき続けるトンボの姿を目に焼き付けたのだった。正直この小汚い小トンボが、そんなに大変な思いをしてまで見たり写真を撮りに行くほどの価値のあるものかどうかはわからない。しかし、虫の冬越しの辛さ厳しさを理解し、それを一丁前に人に語る以上、観察者の側だって同じく辛い目に遭わなければ平等ではない。英語が母国語の者が、英語を母国語としない者が会話で四苦八苦する様を見てバカにしている限り、真の国際化社会など訪れないのと同じだ。極寒の薄暗い森の中、私はトンボとただただ静かで冷たく辛いだけの時間を共にした。

 こうして越冬昆虫達を相手に鍛錬し、向上させた「隠蔽解除能力」は、フィールドから「左右対称のもの」「明らかにその場の景色になじまないもの」を見抜くのに抜群の威力を発揮する。それゆえ、私は擬態昆虫の総本山たる熱帯のジャングルなどへ行っても、枝そっくりなナナフシや樹皮そっくりなウンカなど並み居る刺客どもの擬態技を、次々に見破ることが出来るのだ。

 私に見破れぬ擬態はない。

デイリー新潮編集部

2019年1月5日掲載

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