「私に見破れぬ擬態などない!!」 枯葉や木の枝そっくりな「冬の虫」を探す方法

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発見は筆舌に尽くしがたく難しい⁉

 とは言いつつ、さすがの私でもまだ即時発見が難しい越冬昆虫がいる。ホソミオツネントンボだ。普通、日本の九州以北においてトンボは卵か幼虫の姿で越冬し、その越冬場所も土の中か水の底。しかし、例外的にイトトンボの仲間のうち3種のみ、成虫の姿で越冬する。その一つホソミオツネントンボは、夏に水田や池で羽化する。枯れ草のような茶褐色をした成虫は、まだ暖かい日の続くうちに、死に物狂いで他の小昆虫を捕食して栄養を蓄える。そして、秋が過ぎて本格的な冬の前に水場近くの林内へ入り込み、低木の枝などにしがみついてそのまま一冬動かない。雨に打たれても、雪が積もっても、細く軟弱な体でそのまま耐え続けるのだ。そうして翌春まで耐え忍んだ個体だけが、繁殖に参加する権利を得る。5月の繁殖期、彼らは冬の間枯れ枝のように地味だった体色を目の覚めるような青に変え、残り少ない生を謳歌する。

 このトンボ自体は、活動期に生息地へ出向けば普通に見られる。しかしその越冬態たるや、発見は筆舌に尽くしがたく難しい。何せ、特定樹種にしか付かない尺取虫などと違い、どんな種類の枝にでも取りつく。取りつく高さも部位も全くランダムで、探す狙いを一切つけられない。何より、止まった虫の体が枝そっくりな上、何かその場所にいるという目印を付けるでもなく、本当に無造作にそこにいるだけなのだ。最初に私がこのトンボの越冬態を裏山で探そうと思い立ったのは2008年辺りだったが、初年度の冬は1匹も発見できずに終わった。せめて大雑把でいいから、どういう地形や立地を越冬場所として好む傾向があるかくらいは絞れないかと、当時だいぶ考えた。こういう、地中などに引きこもらず雨ざらしで越冬するタイプの虫なら、いくらランダムに越冬場所を選ぶとはいえ、無防備な越冬を失敗させないための策を講じていることは疑うべくもないのだ。

 むき身で越冬する虫にとっての脅威は、1に敵襲、2に雨風、そして3番目に急な気温変化であろう。知らない人は意外に思うかもしれないが、越冬昆虫にとって真冬に突発的に訪れる暖かな日は、生死にかかわる試練の刻。こういう日、虫はしばしば春が来たと勘違いして起き出し、活動を再開してしまう。しかし、その翌日再び真冬の天候に見舞われれば体が周りの変化に付いて行かず、死にやすい。また、虫に限らず変温動物は、ひと冬の間眠って過ごすのに最小限必要な脂肪分のみ、体内に蓄えて越冬する。体の代謝機能を限界まで落とし、生きるか死ぬかの境目の状態で、少しずつ使ってやりくりしないといけないエネルギー源だ。真冬におかしなタイミングで目覚めてしまえば、それだけでエネルギーを無駄に消費してしまうため、再び寒くなって越冬態に戻ったとて春まで持たずに死ぬ可能性が高い。つまり、虫が越冬を成功させるには、一日を通じて気温の変化がほぼない、そして常に低く保たれている場所を越冬場所に選ぶ方がいい訳だ。私の行きつけの裏山で、一日中ずっと日も差さずひたすらクソ寒い場所はどこかと考えたら、たった1カ所だけ思い浮かぶ場所があった。北向きの斜面に作られたスギの植林地帯だ。

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