「サイコパス」その特異な生存戦略――対談・福田ますみ×中野信子(2)
たった1人の保護者の嘘で、教育現場が破壊されてしまう、悪夢のような実話ノンフィクション『でっちあげ』『モンスターマザー』を書いてきた福田ますみさんと、最新の研究成果から平気で嘘をついて罪悪感を持たない人の精神構造を分析した『サイコパス』がロングセラーとなっている中野信子さん。ノンフィクションライターと脳科学者というまったく異なる立場から「嘘」をテーマに語り合ってもらった。第2回は意外な人物が「サイコパス」である可能性が示される。(全3回)
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中野:サイコパスの生存戦略は、そもそも私たちのそれとちがうんです。
福田:ちがうというのは……?
中野:異常心理学の専門家で彼らのことを人間の「亜種」だという人もいますが、それは言い過ぎだとしても、一般の人と思考形態がかなりちがうようなんです。
福田:ホモ・サピエンスというより……。
中野:いわば「ホモ・サイコパス」。彼らは一般的なホモ・サピエンスとちがう生存戦略で生き延びているんです。その戦略は非常に巧妙で、ホモ・サピエンスが集団を作り、それを守ることで生き延びてきたのに対して、サイコパスはその性質に乗っかって生きてきました。
福田:中野さんの本では「フリーライダー」(タダ乗りする人)という言葉を使っていますね。
中野:そうなんです。私たちが守っている社会や集団を搾取することで生き延びてきたのがサイコパスなんです。そういう意味では彼らは生態系のピラミッドではホモ・サピエンスよりも上にいる。ですから大企業のCEOとか政治家に向いているという言い方もできるんです。アメリカの大統領にもサイコパスが多いという報告もあります。
福田:クリントンやケネディがサイコパスの傾向が強いという研究結果には驚きました。ヒトラーとかスターリンなんかがサイコパスだと言われても驚きませんが、ケネディは意外。
中野:そう指摘する人がいるのはたしかです。恐れ知らずで、大衆にアピールするのがうまい。まだ私たちが彼らの「嘘」に騙され続けているだけだと解釈することは可能かもしれません。
福田:でも、サイコパスが世界から淘汰されていないということは……。
中野:彼らの生存戦略が成功しているということです。生存戦略が成功していればサイコパスの遺伝子は残っていくので。
福田:サイコパスすなわち悪とはいえないというか、世の中にとって必要な存在なんだろうか。
中野:良い/悪い、正しい/正しくないというのは一言では言えないものですが、大事なことはサイコパスの側がそういう判断基準を持っていないということです。そして持っていない方が、生物としては強い。判断基準って、集団を維持するためのものです。「みんなが頑張っているのにズルをする人は悪い」「みんなが守っているルールを破る人は良くない」。しかしそういうルールの存在を知り尽くしていて、なおかつ縛られないで集団を操ることができる人がいたとしたら、自動的にそういうルールのことを考えてしまう人よりも巧みにゲームをプレーできてしまいます。そして生存戦略では良い/悪い、正しい/正しくないではなく、勝つか負けるかが重要なんです。そしてサイコパスは生存競争に勝ってきた。
福田:良い/悪いとか、正義とか、そういうことを考えないわけですよね。
中野:「そういうことを考える領域を持っていない」という感じに近いと思います。サイコパスというのは「正義の領域」「良心の領域」がない人たちということです。
(3)につづく