「金正恩」体制崩壊へのカウントダウン 治安悪化で刑法改正20回の異常事態

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北朝鮮で「アラブの春」は起きるのか?

 2010年から2012年にかけてアラブ諸国で発生した民主化運動「アラブの春」では、民主化運動が起きた国のうち、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンで政権が打倒され、旧政権を支えた人々の亡命や投獄が相次いだ。これらの国の共通点は、北朝鮮と同じく長期政権だったことだ(チュニジアは23年間、エジプトは30年間、リビアは42年間、イエメンは33年間)。盤石に思えた政権だったが、短期間の反政府デモであっけなく崩壊してしまったわけだ。

「アラブの春」の要因の一つは若年層の失業率の高さだった(チュニジア27.3%、エジプト21.7%、リビア27.4%、イエメン18.7%)。そして、「アラブの春」の大きな特徴は、若者によるインターネット、とりわけフェイスブックに投稿された画像や映像が民主化運動を拡散させたことだった。

 北朝鮮でも若者が全国規模の民主化運動を起こすかもしれない。北朝鮮の若年層の失業率は9.7%(ILO基準・2012年)とアラブ諸国よりも低いが、社会主義国家は本来、失業者が存在しないことが建前となっている。北朝鮮が社会主義国家なのかどうかは見解が分かれるところだが、いずれにしても9.7%という数字は、見過ごすことができない数字だ。

長期政権でもあっけなく終わる

 北朝鮮もルーマニアのチャウシェスク政権のように、何かの拍子に一気に崩壊するかもしれない。チャウシェスク政権崩壊のプロセスは謎の部分が多いが、チャウシェスク(1918~1989)と金日成(1912~1994)は親交があり、金日成の影響を受けてチャウシェスクは北朝鮮式の統治手法をとっていた。それにもかかわらずチャウシェスク政権は崩壊してしまった。北朝鮮とルーマニアは地政学的な環境が大きく異なっているが、北朝鮮式の統治手法にも限界があることを示している。

 大量のビラを散布したとしても、国内全域で一気に反体制運動を起こすことは簡単なことではない。起爆剤となる何らかのきっかけが必要となる。きっかけを作る手段として、密輸された小型ラジオによる呼びかけという方法がある。呼びかけを行うのは中国を拠点とした脱北者支援団体が最適かもしれない。

 ともかく、現時点でできることは大規模な反体制運動を起こすための素地を作っておくことだ。極度な生活苦になった人々が外国のラジオを聴いたり、反体制運動を呼びかけるビラを見て運動に呼応する人々が出てくるかもしれない。つまり、「金正恩に不満を持っているのは自分だけではないのだ」と国民ひとりひとりに認識させることが大切なのである。

 金正恩体制の崩壊へのカウントダウンは既に始まっているのだ。

取材・文/宮田敦司(北朝鮮・中国問題研究家)

週刊新潮WEB取材班

2019年1月2日掲載

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