徴用工判決は文在寅政権のせいだけではない ガラパゴス化する韓国司法の深過ぎる闇
文氏の逃げ腰の裏には…
最高裁判決後、韓国内では「韓日関係に多少波風が立っても、日本で強制労働させられたおじいさん、おばあさんの恨(ハン=無念さ)が晴らされたのだからいいじゃないか」という空気が支配的だ。一方で、「大したことないだろう」と高をくくる文政権や社会に警鐘を鳴らす声もある。
「『反日の代償』は高い」と題した保守系紙、朝鮮日報の論説委員のコラムが代表的だ。「外交条約にまで口出しできる司法権を持つ裁判所は、経済協力開発機構(OECD)加盟国にはほかにないと聞いた」と指摘し、徴用工訴訟の最高裁判決を「極めて『大韓民国の裁判所らしい』判決だ」と皮肉った。半世紀にわたって維持してきた合意を覆せば、相手が反発し、関係が悪化するのは当然だというのだ。
このコラムに対し、ネットに投稿された読者の意見も興味深い。いずれも保守系の李明博(イ・ミョンバク)元大統領が「突然、独島(トクト=竹島の韓国呼称)に上陸した」り、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が「日本の首相と数年間会いもしなかった」りしたことを例に「対日外交が今の政権になって全てダメになったかのように書いているが、事実の歪曲だ」と反論している。
10月30日に新日鉄住金に、11月29日に三菱重工業 に、それぞれ賠償を命じた最高裁判断も、そもそも2012年に最高裁が「原告らの個人請求権は消滅していない」として高裁に審理を差し戻した判断を追認し、なぞっているだけだ。当時は李明博政権下だ。「反日・親北」政権下だから出された判断ではない。
しかも同じ李政権時代の11年に、最高裁とは別に違憲審査などを行う憲法裁判所が、慰安婦問題をめぐって韓国政府が日本と外交交渉しないのは「被害者の基本的人権を侵害し、違憲」だとの判断を示している。この判断がもとで、交渉に消極的な日本への反発から李氏が竹島に上陸するなど、後の日韓関係悪化の火種は保守政権時代の司法判断によってばらまかれてきた。
朴槿恵政権に限っては、12年の最高裁の判断通りに日韓請求権協定の根幹が否定されることになれば、日韓関係に多大な悪影響が及ぶと懸念し、最高裁に確定判決を先延ばしさせようと画策したとみられている。このため、違法な介入があったとして、現在、当時の最高裁関係者に対する検察の捜査が続いている。
文氏が今回の最高裁判決に影響を与えたというなら、この司法介入疑惑を含め、朴前政権のあらゆる行為を「積弊清算」と称して糾弾・捜査の対象にし、結果的に最高裁が5年間たなざらしにしてきた審理を慌てて再開させたことだろう。判決結果や日韓関係への波及が目に見えているのに事前に何ら対策を講じず、判決後も知日派の李洛淵(ナギョン)首相 に丸投げしていることもマイナス面といえそうだ。
文氏は弁護士時代の00年に三菱重工を相手取った訴訟の代理人を引き受けた経緯もある 。「いいことだから手助けしましょう」と快諾し、精力的に支援したが、政界に進出したことで手を引いていったという。逆に、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の05年 には、徴用工問題は請求権協定の対象に含まれるという日本との合意に沿った政府見解をまとめる側に回り、政府委員として元徴用工らへの補償を進めた。
つまり、文氏は原告の勝訴は喜ばしいが、日韓協定も否定できるわけはないという微妙な立場に置かれている。前出の「協定は有効だが、請求権まで消滅していない」という言葉は本音の認識だろう。ではどうやって解決するのかと問われれば、首相に丸投げするという逃げ腰でしかなかった。
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