犯罪者の“逃げ得”を許すな 被害者遺族が待ち望む「代執行制度」とは

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制度導入によるメリット

 生井さんのケースのように犯人が逃げ続けていたり、逮捕されていたとしても当人に損害賠償する意思がなければ、民事訴訟で勝訴しても遺族は一銭も得ることができないのが実情だ。事実上、勝訴の判決は紙切れ同然と言えよう。実際、日弁連が殺人事件50件を調査したところ、賠償金全額が支払われたのは1件のみ。これでは「殺され損」である。そこで目下、本来は加害者が被害者や遺族に支払うべき賠償金を、一旦国が肩代わりし、行政の責任で加害者から賠償金を取り立てる代執行制度の導入が議論されているのだ。

「日本における現行法は、被害者の権利について蔑(ないがし)ろにされています。憲法には、加害者の権利を規定した条項は10カ条もあるのに、被害者の権利を規定した条項はひとつもないんです」

 とした上で、殺人事件の被害者遺族会「宙(そら)の会」の特別参与で、世田谷一家4人殺害事件の捜査にもあたった元警視庁成城署長の土田猛氏が説明する。

「現在の民事における当事者主義では、加害者に賠償させる実効性はほとんどない。代執行制度の導入により、その可能性が出てきます。そして、導入によるメリットのひとつは、国が求償権を持つことそれ自体です。一般人である遺族と違い、国であれば税務署などの行政機関を駆使し、加害者に対する調査や、場合によっては財産を差し押さえることも可能となるでしょう。加害者が受刑中の場合は、作業報奨金からの徴収も可能となると思います」

 例えば、07年のリンゼイさん殺害事件では、

「市橋達也受刑者の両親は医師で経済的な余裕はあると思われますが、現行制度では存命中の両親の財産を差し押さえることは困難です。しかし、代執行制度が導入され、国が求償権を持てば、市橋受刑者に損害賠償を認める判決が出た時点で、彼の両親の財産を生前贈与予定のものとみなして没収することもできるかもしれません」(同)

 そして、土田氏が最大のメリットと考えるのは、

「犯罪抑止力です。これまでは、例えば刑務所に入ってしまえば、一個人である被害者および遺族による賠償金の取り立ては事実上不可能で、加害者は逃げ切ることができましたが、国が求償権を持てばどこまででも追い掛けられることになる。これによって、新たな犯罪の抑止につながると考えています」

 既に時効が成立してしまった事件では、加害者に刑事罰を科すことができない。その上、これまで見てきたように民事訴訟で勝訴しても現実的には賠償金を手にできる可能性は低い。理不尽にも、そういった二重の苦しみに襲われている被害者や遺族たちの負担の一端を、文字通り国が肩代わりするというのが代執行制度なのである。

(2)へつづく

週刊新潮 2018年12月27日号掲載

特集「今のままでは『殺され損』被害者遺族が待ち望む『代執行制度』」より

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