レスリング「伊調馨」、奇跡の復活優勝を「栄和人」元監督はどう見たか?

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指導を続けていれば……

「現場に行くとメディアに追い回されるから」と愛知県の自宅で見守った栄氏は「伊調選手の勝利で、また俺の名前が出されて嫌になっちゃうよ」と苦笑する。

 さて、東京五輪までの次の関門は来年6月の全日本選抜選手権(明治杯)。ここで伊調が優勝すれば9月の世界選手権の出場権を得る。メダルを取れば五輪はほぼ手中にする。川井が勝てばプレーオフになる。今回の結果で伊調が一歩リード、川井が崖っぷちになった。
 栄氏は「6月から指導できなくなっちゃったけど、指導を続けていられたら川井には絶対勝たせてやれたと思うんだけどな」と、やはりもどかしそうだ。

 今大会、伊調馨の相手はすべて栄氏が育てた至学館大学の後輩だった。伊調馨、吉田沙保里(36)らを育てた栄氏だが、「国民的ヒロイン」にいつまでも“おんぶに抱っこ”する男ではない。必ず彼女らを倒すべく若手を育て、それをぶつける厳しい「下克上」を作ってきた。それが至学館大の強さであり、全日本女子のレベルを引き上げてきた。

 今後メディアは「伊調のオリンピック五連覇」で舞い上がるが、それは別として、レスリング界のためには一刻も早く、彼をマットに戻すべきである。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班

2018年12月26日掲載

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