大口開け過ぎて顔面崩壊の危機! 高畑充希の食べっぷりが気持ちいい「忘却のサチコ」

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 マクラなしには理由がある。食べっぷり&しゃべりっぷりのよいふたりの主演ドラマ2作を詰め込むから。

 まず食べっぷり。テレ東「忘却のサチコ」の高畑充希だ。結婚式当日に新郎(早乙女太一)に逃げられた過去をひきずる編集者の役。

 頭に浮かんでは消える愛した男を、唯一忘れることができるのが「食べている時」という設定だ。が、食べるシーンも冗長ではない。いい塩梅。しかも高畑の食べっぷりがいい。口と顎が小さい割に、驚愕の量をひと口で収める。さらっと流して観ていると美しい食べっぷりなのだが、スロー再生で観ると、瞬間的には顔が崩れるほどの大口を開けている。顎関節症にならないかとの心配をよそに、次々に淡々と吸い込まれていく料理。驚きの吸引力。しかも実にうまそう。高畑はフライドチキンのCMにも出ていたが、あれで鶏欲をそそられた人も多数いる。

 テレ東十八番の深夜メシモノだが、ただ無策に食べるだけではないところがいい。仕事の上では、抜かりなく完璧主義かつ猪突猛進の高畑。厄介な作家たちや口先大臣の後輩(葉山奨之)を転がしつつも、婚約者の謎の逃亡というトラウマと闘う。それでも日々の業務を粛々と遂行。ふせえりや吹越満、上地春奈ら脇役陣の軽妙な小芝居もスパイスとなり、高畑というメインディッシュに彩りを添える。画面の端っこまでうっかり気を抜けないのだよ。

 そして、しゃべりっぷり。BSフジ「警視庁捜査資料管理室(仮)」の瀧川英次だ。どうやらフジテレビ肝煎りの過去の作品を宣伝するために作られたようなのだが、そっちは正直どうでもいい。

 一般企業から転職し、技術専門官として警視庁に勤務する瀧川。仕事といえば、すでに解決済みの捜査資料を打ち込むデータ入力。地下の倉庫のような一室に追いやられ、日々ひたすら打ち込む閑職。しかもひとり。

 解決済みの案件を、得意の妄想と独自の推理でほじくり返す。悩んだときは卓球の素振り100回。プライベートでは3年前に離婚し、娘もいるが、元妻も娘もつれないそぶり。手紙やLINEもそっけない。公私ともにひとりぼっちの瀧川が、妄想推理をお披露目。

 いや、お披露目っつっても、基本誰からも相手にされない。時折、資料室に息抜きで訪れる総務課の小橋めぐみや、刑事課見習いの向井地美音(むかいちみおん)には、推理を一蹴される。上司である甲本雅裕からも蔑(ないがし)ろに。組織内で忘れられがちな存在で、資料室に一晩閉じ込められても誰にも気づかれない。

 無駄に知識が豊富なせいか、瀧川の推理は明後日(あさって)の方向へ進みがち。しかも、こじつけの推理が必ず破綻するので面白くて仕方ない。

 たったひとりで妄想捜査する瀧川の、滑らかかつ滑稽なしゃべりっぷり。第二の堺雅人だわぁと独(ひと)り言(ご)つ。

 次回予告は別の顔。もうひとつの顔である映画コメンテーター・赤ペン瀧川として登場。軽妙な予告編も楽しみのひとつになっとる。

 淡々と食べる・滔々としゃべるって、実はすごいよね。このふたりに今期の主演俳優賞を進呈したい気分。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年12月20日号掲載

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