深呼吸が健康にプラスになるとは限らない!? 専門家が説く「良い呼吸」「悪い呼吸」

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嗅覚低下と認知症の関連

 続いて(C)の口呼吸の習慣が良くないのは、嗅覚の働きが鈍ってくるからです。危険に晒されがちな小動物にとってはより重大ですが、人間でも嗅覚は食べ物をかぎ分けるとか、生存のために必要不可欠ですよね。

 風味という言葉があります。試みに、目を閉じて鼻を摘み、チョコレートを口に放り込んでみてください。味が分からないはずです。でも、鼻から手を離すと分かるんです。鼻づまりの方も、食べているものの味がよく分からないという人が数多い。要するに、味を感じるのに嗅覚が大きく影響しているわけです。咀嚼と同時に鼻で息を出し入れして食べ物の香りをキャッチしているから、風味を感じることができる。普段から鼻ではなく口で呼吸をしていると、香りの刺激が少なくなり、嗅覚の働きが鈍ってしまう。

 それが脳にも大きな影響をもたらすのは想像に難くないでしょう。嗅覚は脳の大脳辺縁系へダイレクトに、かつ大きな刺激を与えます。大脳辺縁系は不安や怒り、危険察知、記憶処理などを司っていて、嗅覚が低下すると、こうした重要な情報をキャッチできなくなるのです。

 実際に、嗅覚低下と認知症の関連性を調べた研究報告があります。アルツハイマー型の認知症では、初期症状として、「匂いが分からなくなる」という兆候が現れることが分かっています。また、「口呼吸をして嗅覚を衰えさせてしまうと認知症になりやすくなる」と報告している論文も存在しています。

(D)について疑義を差し挟む余地はあまりないと思います。口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。嚥下機能(物を飲み込む働き)障害のため、唾液や食べ物などと一緒に細菌が気道に誤って入ることにより、肺に炎症が起きてしまうのが誤嚥性肺炎。肺炎は日本人の死亡原因の第5位ですが、誤嚥性肺炎はうち7割を占める。

 私たちののどは、咽頭という部分で「肺への気道」と「胃へ行く食道」とに分かれ、この分岐点には喉頭蓋というものがあります。高齢になってのどの筋肉が弱ってくると、いわばこの「のどのフタ」がうまく閉まらなくなり、飲食物が気道に入りやすくなる。当然、呼吸機能も落ちていることが考えられ、誤嚥しそうになったときに咳で吐き出そうとする力も弱っている可能性が高い。飲み込みの衰えは呼吸機能の衰え、逆もまた真なりで、飲み込む力を落とさないためにも、いまのうちから呼吸機能を鍛え、空気を出し入れする力をキープする必要があるのです。

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 つづく(2)で呼吸筋の鍛え方を掲載。

本間生夫(ほんま・いくお)
1948年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。専門は呼吸神経生理学。文科省教科用図書検定調査審議会会長、日本生理学会副会長などを歴任する。現在は、東京有明医療大学学長、昭和大学名誉教授、NPO法人安らぎ呼吸プロジェクト理事長などを務める。著書に『すべての不調は呼吸が原因』『呼吸を変えるだけで健康になる 5分間シクソトロピーストレッチのすすめ』など。

週刊新潮 2018年12月20日号掲載

特集「『深呼吸』は大間違い! 『肺炎』から身を守る『呼吸筋ストレッチ』」より

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