事務所マンションに「民泊」部屋が(中川淳一郎)

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「民泊」をめぐりバトルが発生しそうな予感が沸々とわいてきております。私が事務所として借りているマンションは、ファミリータイプのそれなりに高い物件なのですが、「民泊禁止」を謳っているのに、どうやら最低1軒、民泊をやっている部屋があります。

 一生の買い物をした方々からすれば、これは由々しき事態です。このマンションの管理組合は、近くに高層階のマンション建設計画が立ち上がった時、一斉に団結しました。日当たりが悪くなるなど不動産価値が低下することを死活問題と捉えますから、管理組合で議論をしたうえで、新しいマンションを建てる業者に「〇階建て以上にはしないでほしい!」と主張し、認めさせたのです。

 外国人観光客が増加し、民泊を推進する自治体もある中、この管理組合は会議を招集し、民泊の是非を議論した結果、「禁止」となりました。当時、外国人の民泊利用者のゴミ出しマナーの悪さや夜中に大騒ぎするケース、大勢が部屋に入っていく様などが報じられていたことも影響したでしょう。

 私のような賃貸組はこうした意思決定にかかわることはできないので、「まぁ、皆さん、より良い結果を出してくださいね」と願うことしかできなかったのですが、組合の総意を無視する形で民泊として利用されている部屋がある。

 オートロックを通過しなくてはいけないエントランス前には、巨大なトランクを持った白人や中国人の家族が時々たむろしています。マンションに到着し、家主が来るのを待っているのです。彼らの宿泊先がどこの部屋なのか、一つは突き止めました。

 このマンションは2LDKか3LDKで、そこそこの一等地にありますので、1泊1万6千~2万2千円ぐらいは取れることでしょう。これが1カ月間、毎日埋まれば賃貸料よりは圧倒的に稼げますし、分譲の人が支払うローンよりも高い収入を確保できる。

 だから民泊をやっているのでしょうが、「住人以外の人が入り口にたむろしている」という状態が若干の緊張感を与える上に、連日エントランスの内部にゴミが捨てられるようになったんですよね……。エントランスからエレベーターまでの通路には、郵便ポストに入れられた不要のチラシを捨てるためのゴミ箱が二つ設置されています。ここに、コンビニ弁当の容器やスナック菓子の袋やペットボトルが詰め込まれたレジ袋が捨てられるようになりました。管理人のおじさんがゴミを床に置き「ここにチラシ以外は捨てないでください」と注意書きを添えている様が悲哀を漂わせます。

 民泊の家主と客の間のやり取りは分かりませんが、住人専用のカギ付きの共同ゴミ捨て場には入れないようになっているのかもしれません。また、「部屋のゴミはすべて撤去せよ」なんて決まりを設けているのかもしれません。

 この状況、あと何年かすれば出ていく賃貸組の私からすれば、不快ではあるもののそこまで深刻ではありません。しかしこのマンションの部屋を終の棲家として買った方からすればこの状況は耐え難いことでしょうし、会議を重ねていることでしょう。ますます家を買いたくなくなりました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年12月20日号掲載

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