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トマトは野菜か、果物か――。皆さん、そんな疑問を持ったことはありますか? いずれに属するか、いろいろな意見があるものの、ナス科の植物であることは確かな事実です。今回は、そのトマト栽培の先進地域で知られる福島県西白河郡矢吹町三神地区の農家をご紹介します。
この地区で栽培されている「旬太郎トマト」は、糖度が9.5以上という驚きの甘さを誇ります。通常、トマトの糖度は5、6度。イチゴやミカンが9度前後と言ったら、いかに甘いか、想像がつきます。フルーツトマトという表現もありますが、「旬太郎」は、甘さだけなら、果実の資格は十分といえるでしょう。
私が訪ねたのは、5人の生産者で構成する「TCトマト班」の班長さんを務める坂路充さん(67)。17アールを擁する大きな鉄骨ハウスでは、坂路さんと奥さまの成子さん(61)が、出荷が始まったばかりのトマトの着果の状態を、真剣な眼差しで確かめていらっしゃいました。
稲作やブロッコリーを手掛けていた坂路さんがトマト栽培に転じたのは、1995年のこと。その4年前から「隔離ベッド養液栽培システム」による高品質トマト栽培を開始していた先輩農家の勧めによるものでした。「露地栽培の普通のトマトは作ったことがあったものの、高品質トマトは全くの初心者。ゼロからの出発でした」と坂路さんは振り返ります。トマトは、肥料濃度を高くし、水分の量を減らすと、玉が小さくなる代わりに糖度がアップします。アスリートはスパルタ式の練習をこなさないと上達しませんが、トマト栽培も同じ。トマトも試練を与えられることで、甘さが増すのです。坂路さんは、「ストレスを一度に与え過ぎるとだめにしてしまう」と指摘します。「その頃合いが難しい。トマトの顔色を窺いながら、育てています」
ある年、例年以上に糖度の高いトマトの収穫があり、坂路さんたちは、それを機に、糖度9.5以上の高品質トマトをブランド化することを決意します。かくして2010年に誕生した「旬太郎トマト」。名称は、仲間のひとり、関根幸一郎さんのお子さまの名(俊太郎)に因んだもの。出荷される箱には、俊太郎君が書いた作文『ぼくんちのトマトは世界一』のPOPが添えられるというから、素敵です。TCトマト班では、昨年実績で、4万9121キロのトマトを出荷。このうち44.8%が糖度7度以上の高糖度トマト。現状、12.6%の「旬太郎」の比率アップが「当面の目標」なのだそうです。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震の被害に加え、福島第一原発の事故に伴う影響と風評被害が、福島県の農業を直撃しました。危機感を抱いたTCトマト班では、食の安全、品質改善、経営改善を目的にGAPへの取り組みを開始。今年3月、JAグループ福島の団体としては初めて、JGAP認証を取得されたのです。「1つ1つの作業に対する意識が大きく向上しました」と坂路さん。GAP認証は、東京五輪選手村で提供される食料調達の条件。福島産の農畜産物が、1品でも多く世界のアスリートに提供されることを私も願ってやみません。
東日本大震災の5年後の2016年3月、広域合併で発足した福島県のJA夢みなみは、「すかがわ岩瀬」「しらかわ」「あぶくま石川」の3地区からなり、各々、特色ある農業を展開している。営農担当常務理事の薄井惣吉さんが話す。
「すかがわ岩瀬地区はキュウリ栽培、しらかわ地区はブロッコリー・トマト・ハトムギの栽培で知られ、あぶくま石川地区はブランド牛“いしかわ牛”が有名です。六次産業化にも積極的に取り組んでおり、直売所の職員が生産者と一緒に育てたコシヒカリで醸した日本酒『石背の光』、ハトムギを使用した化粧水・乳液、いしかわ牛のビーフシチュー、味噌カレーのレトルトなどが、好評です」
東日本大震災では、白河市の葉ノ木平地区で大規模な地滑りが発生、13人の犠牲者を出した。また、その後の福島第一原発の事故により、管内の農業は大きな打撃を被った。
「除染対策、放射能検査等に相当の労力が費やされ、農畜産物に対する風評被害は未だ収まっていません」
そこで、同JAが打ち出したのが、「消費者から信頼される産地へ」という施策。具体的には、「福島県第三者認証GAP取得等促進事業」を活用し、管内の農家団体がJGAP認証取得を目指すことを支援している。
今年の3月、冒頭で紹介した通り、しらかわ地区の5人のトマト栽培農家がJGAPの団体認証を取得。これに続き、しらかわ地区であいがも農法を行う4人の稲作農家の団体とすかがわ岩瀬地区のキュウリ農家19人の団体が、5月と10月に、各々、認証を取得した。薄井常務理事も、「風評被害を払拭するとともに、農家の皆さんのプライドの回復にも繋がるのでは」と言う。福島の農業の復興への歩みはさらに加速してゆく。
野菜か果物か、で悩んでしまうトマト。でも、こんなに甘くて美味しいのなら、どちらでもいいですね。トマトはリコピンなど体に良い成分がたっぷり。1日3食、トマトを欠かさない生産者の坂路さんご夫婦の肌がぴちぴちなのも、当然ですね。福島の農家の皆さんは震災で大変なご苦労をされました。そんな中、より糖度の高いトマト栽培に挑戦し、JGAPの取得を目指すなど、向上心を失わず、努力されている姿勢には、本当に頭が下がります。こちらの方が勇気を頂いたような気がします。
[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治 [ヘア&メイクアップ]岩澤あや [スタイリング]吉田謙一(SECESSION)