先輩は宝(中川淳一郎)

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 昨今「先輩」がいかに貴重かということを実感し続けております。45歳という、いい年したオッサンではあるのですが、最近やたらと学生時代及び会社員時代の先輩と会う機会が増えており……。とある人事系のイベントで司会をした時のことですが、その場にいたのが、大学のトレーニングルームでいつも一緒にトレーニングをしていたS先輩でした。現在人事系の仕事をしていますが、私とのツーショット写真をフェイスブックに公開したりして、その後の飲み会の約束もしました。以後、S先輩は、事あるごとに声をかけてくれるようになりました。

 先輩というものは全面的に自分を守ってくれる存在でもあると感じております。最近、私の古巣である某社の営業と業務上でトラブルになったのですが、それについてフェイスブックで罵倒し、愚痴を述べたところ、今も会社に在籍している先輩方がすぐに「大丈夫か?」「ちょっと事情を聞かせてくれ」と連絡をくれました。

 結果的に事態は収束したのですが、先輩というものは常に自分を心配してくれ、時には力になってくれるものだな、と思ったのです。最近、ウェブメディアで記事を出す場合、「ウザい先輩・上司」などを「老害」的文脈で叩くと多数のアクセスを稼ぎ、共感の言葉が書き込まれます。しかしそうやって敵視するよりも、先輩に対しては容赦なく頼りましょう。

 若い内は先輩がたくさんいるのだから、徹底的に甘えましょう。自分が年を取れば取るほど先輩はどんどん死んでいきます。いつしか「先輩がいない生活」が到来した時に果たして自分を守ってくれる存在はいるのか――。こうした危機感を今は抱いておりますので、これからの数年間は先輩を訪ねる旅をし、いつか彼らに助けてもらおう、と心を新たにしました。

 ちなみに今回の当原稿のテーマについてですが、11月27日に行われた「PR3・0カンファレンス」という広報・マーケティング業界の人が集う約1300人参加の大イベントで私が登壇者になった際、イベントに来ていたM嬢という会社員時代の先輩が自身の偉大さを示すべく「中川君、『先輩がいかに貴重か』という話を書けばいいんじゃないの?」とネタを出してくれたのでした。本名は「まさこ」さんです。

 このM嬢は私が書く文章に時々登場する人物です。会社を辞めることを決意した早朝、「Mさん、オレ、会社辞めます」と発言した時に「まぁ、いいんじゃないの~」と退社を後押ししてくれた人物として描いているのですが、この「M嬢」という呼称について、イベントにいた女性はこう言いました。

「えっ! 中川さんの文章に時々出てくる『M嬢』ってまさこさんのことだったの!? 私、てっきりSMクラブに出入りしていた中川さんが『M』を担当する女性に相談した話だと思ってた!」

 これにはさすがのまさこさんも「コラ! 何を言っているの! あのM嬢は私よ!」と怒ったのですが、件の発言の女性は「頭がおかしい中川さんには、会社辞める相談をする際もそのぐらいヘンなことをして欲しかったんです」なんてふざけたことを言いました。ちなみに彼女は後輩です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年12月13日号掲載

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