2025大阪万博、いつの時代やねん(古市憲寿)

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 2025年に大阪で万博が開催されることが決まった。

 場所は大阪市の西に位置する人工島の夢洲(ゆめしま)。電車とバスを乗り継いで行ったことがあるが、信じられないほど辺鄙な場所だった。要は、使い道がなくて困っていた夢洲を何とかするために、万博を誘致したかったということなのだろう。

 地元ではそこそこ盛り上がっているらしい。何といっても大阪には、1970年万博が成功したという栄光の記憶がある。目標を大きく上回る約6422万人もの来場者が訪れ、その数は2010年の上海万博に抜かれるまでは歴代トップだった。「古き良き昭和」の象徴として、「20世紀少年」や「クレヨンしんちゃん」など多くの作品でも言及されてきた。

 万博の正式名は「国際博覧会」。世界各国が最新技術を持ち寄り、「未来」を提示する博覧会である。いち早く動く歩道やテレビ電話、電気自転車などがお披露目された1970年万博は、未来社会の実験場でもあった。

 2025年万博もテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」である。今回の万博ではどんな「未来」を掲げるのだろうか。大阪府の資料によれば、「万博のインパクト」を活かして、「誰もが生涯にわたって心身ともに健康で豊かな生活の実現」「一人ひとりのポテンシャルや個性を発揮し活躍できる社会の実現」などを目指したいのだという。

 はっきり言って、全く意味がわからなかった。人生100年時代、大阪府民が死ぬまで健康でいて欲しいと願うのはわかる。一人ひとりの個性も発揮されたほうがいいに決まっている。

 しかしなぜそれが万博で実現できると考えるのか。万博とは、たった半年のイベントである。そんなイベントを開いたくらいで、大阪が抱える社会問題が解決されるとは到底思えない。万博をきっかけに大阪を変えていくという話だとしても、だったら万博など開かずにその予算を直接、高齢化対策に回せばいい。

 そもそも、未来を博覧会で展示するという発想自体が時代遅れも甚だしい。20世紀の未来は、目に見えた。「空飛ぶ車」や「リニアモーターカー」などの模型でも展示していれば、未来を演出することができた。

 しかし21世紀の未来は、目に見えにくい。というか、わざわざ博覧会になど出向かなくても、未来は誰もが持つスマホの中で、ある日突然始まる。「ポケモンGO」などの画期的なサービスは、アプリとしてリリースされた瞬間、世界中で大量のユーザーを獲得した。

 そんな時代に、わざわざ辺鄙な人工島に何を展示するつもりなのか。そもそも「未来社会」を実現させたいと思うなら、他国でとっくに解禁されているものを、どんどん自由化するのが先だと思う。Uberも使えず、大麻は医療用でさえも禁止する国に「未来」を語る資格などあるのだろうか。

 万博の開催は決まってしまった。だったら特区制度を最大限活用して、夢洲を日本一自由な空間にして欲しいと思う。カジノも大麻も何でも認める。そんな万博なら盛り上がるかもね。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年12月13日号掲載

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