日本人の健康を蝕むマイルドドラッグ――医師が説く「米」との付き合い方

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 日本人は、世界の中でも無類の「米」好きな民族だ。しかし、米には糖質が多く含まれており、脂肪や糖に依存する「マイルドドラッグ中毒」を引き起こしてしまう危険性がある。その結果、糖尿病やメタボリックシンドローム、癌などの発症リスクが高まるという。『甘いもの中毒』(朝日新書)の著者で宗田マタニティクリニック院長の宗田哲男氏に詳しい話を聞いた。

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「糖」と聞くと、チョコレートやケーキなど甘い食べ物を連想しがちだ。しかし、米にも糖は多く含まれており、その量は、ごはん 1杯(150g)で角砂糖 14個分に匹敵すると言われている。

 もっとも、ここで言う糖とは、「糖類」ではなく「糖質」の意味。前者は砂糖やはちみつなどの主成分で、後者はそれらに米や麺類などを加えたもの。つまり、分類的には、糖質の中の糖類というカテゴリーだ。

 糖質(糖類含む)には、麻薬のように、脳内のドーパミン報酬系を強く刺激し、依存症を引き起こす危険がある。このことから、糖質を多く含む食べ物は「マイルドドラッグ」と呼ばれている。

 とりわけ日本人は米が主食のため、諸外国と比べても、糖質過多の人が多い傾向にあるようだ。

「たとえばフランス人は、いつもフランスパンやクロワッサンなどのパン類がメインの食事というわけではなく、肉や野菜もしっかり食べています。一方、日本人は少量のおかずで、米をたくさん食べているので、糖質を多く摂りがちです。よくグルメ番組などで、塩辛いおかずに対する褒め言葉として、『ご飯が何杯でも食べられる』といわれますが、健康のことを考えると、糖質過多を誘発する悪魔のささやきといえます」(宗田氏、以下同)

 米の怖いところは、糖類のように甘い味がするわけではないので、量をたくさん食べることができる点にある。まさか砂糖以上に血糖値が上がるとは思ってない人が多数派だろう。

 それに、年々、米の消費量が減ってきているとはいえ、パンや麺類などの炭水化物がそれに取って代わっているだけとも考えられる。加えて、昔より多種多様な清涼飲料水(炭酸飲料、スポーツドリンク)、スナック菓子なども出回っているため、無自覚なまま、糖質過多に陥っている日本人が多いというわけだ。

日本人の糖尿病患者は1千万人

 マイルドドラッグ中毒が進み、糖質を摂りすぎることで、様々な健康リスクを高めている。

「糖質過多によって、肥満や糖尿病、がん、認知症、歯周病などにかかる可能性が高まります。その中でも一番問題なのは糖尿病。2016年の厚生労働省のデータによれば、糖尿病が強く疑われる『有病者』は1千万人もいて、1960年には約20万人だった患者数は50倍へと急増しています。この数字は日本人が糖質を摂りすぎていることのなによりの証拠です」

 糖尿病は、血液中にある糖の量が、異常な数値で高止まりしてしまう病気。深刻化すれば失明にいたる『糖尿病性網膜症』や命にかかわる『糖尿病性腎症』、手足の壊疽(組織が腐ってしまうこと)につながる末梢神経の病気『糖尿病性神経障害』という三大合併症を引き起こすといわれている。

 さらに体の抵抗力も弱まり、感染症にもかかりやすくなるため、死にいたる危険性もあるのだ。

 しかし、糖尿病患者や糖尿病予備軍の人の食事に対し、多くの栄養士は糖質ではなく、カロリー制限を指導しているのが実態だという。

「日本の糖尿病治療では、『カロリーで血糖値をコントロールできるため、摂取カロリーを下げれば、血液に含まれるブドウ糖の量が少なくなる』という考え方が主流です。しかし、血糖値を上げるのはあくまでも糖質だというのが、今の科学的常識なのです」

 2013年、アメリカの糖尿病学会は「糖質制限は糖尿病治療の選択肢のひとつである」と発表している。つまり、糖質の摂取を控え、代わりにタンパク質と脂質をたっぷり摂れば、血糖を下げるインスリン注射や薬に頼らずとも、糖尿病は治療可能なのだ。

夕飯の炭水化物を抜くだけでOK

 では、どの程度の糖質摂取量ならば、健康リスクを抑えることができるのか。

「『ロカボ』(低炭水化物、Low Carbohydrate)食事法を提唱している北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏は、『糖質は1日130gまで』と規定しており、この量はごはん3杯分に相当します。ただし、実際に米を3杯も食べてしまうと、他に糖が入っているおかずを食べるとオーバーしてしまうため、最低でも2杯に抑える必要があります。ごはんを抜けばお腹は空きますが、その分お肉や魚、葉物野菜を普段の倍以上摂ればいいでしょう」

 さらに上級者向けの糖質制限法もある。宗田氏が実践している食事法は、1日1食で夕飯のみ。炭水化物はまったく摂らず、肉や魚、野菜を目一杯、満腹になるまでたっぷり食べるスタイルだ。

「夜1食だと、食べてからすぐ眠気がくるので早寝早起きにもなり、生活改善にも繋がります。また、夕食の際、私の場合は炭水化物をほぼ食べません。特にごはんを食べると、脳がおかわりを要求してしまいます。不思議な話ですが、米を食べるからお腹が空くのです。ただし、あくまでも糖質過多がいけないのであって、糖質ゼロにすべきということではありません。1日1食が難しいようなら、せめて夜は肉(タンパク質)などをたくさん食べれば、朝起きてからしばらくしても意外と空腹にはならないはずです」

 多くの日本人が米を食べ、知らず知らずのうちにマイルドドラッグ中毒になり、病気や肥満リスクを抱えている。ひょっとすると、タバコと酒の次にお上の規制にかかるのは、実は「米」なのかもしれない。

取材・文/福田晃広(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2018年12月5日掲載

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