主演はノーギャラ「カメ止め」興収は誰の懐に? 日本映画界“搾取”のカラクリ

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3億円の行方

「一番儲かったのは、配給に協力したアスミック・エースでしょうね。アスミックとENBUゼミナールがどのように契約しているかにもよりますが、配給が1社でない場合、半々から7:3が一般的。アスミック・エースのほうが取り分が多いのは確実でしょう。ENBUゼミナールは過去の実績がないため、下手をしたら8:2という場合もありえます。アスミック・エースはいい買い物をしましたね」

 それでも製作と配給を担ったENBUゼミナールには、製作費300万円を優に超える金額が懐に入ってくるはずだ。仮に15億円の内、アスミック・エースの取り分が12億円(8割)だったとしても、残り3億円(2割)がENBUゼミナールに入っている計算になる。

 監督や主演俳優のメディアでの発言や、現在の日本映画界の構造を踏まえ、その莫大な金を得たのは誰なのか――。

「おそらくはプロデューサーやその界隈の人たちでしょう。今回のケースでは役者はノーギャラ、監督のギャラも製作費から考えるに30万ほどだと思います。どちらも興行収入に応じてロイヤルティーが入る契約は結んでいないでしょうからね。しかし、一般的に製作会社や配給会社の役員、その会社に属すプロデューサーは臨時報酬という形で還元されるはずです」

 あくまで、これは野島氏の推測にすぎない。しかし、現在の日本映画業界の搾取の構造を見れば、こうした結論に至ることは決して突飛なことではない。

「映画がヒットしたところで、役者の扱いはブラック企業以下。何日も拘束されて、数万円程度しかもらえません。仕事がないときは工事現場で働いている役者も僕の知り合いにいます。製作会社や配給会社としては、『君にはこの役を数万円で与えて、あとのお金は払わない。でも映画に出た経歴は一生使えるから、ありがたく思え』という考えなのでしょう。監督も同様で、ワークショップや講師などをして食いぶちをつないでいくのがやっとです」

 日本映画界では、一般的に監督や役者のギャラは映画が作られる前の段階で、予算の中から決められることが多いのだ。

「大手事務所の主役級の役者や有名監督でない限り、ロイヤルティーの契約も滅多に結ばれることはありません。日本でもし、俳優が権利を主張しロイヤルティーの契約を口にしようものなら、煙たがられて使ってもらえなくなるのがオチです。日本でも一刻も早く、海外と同じく監督や役者たちが権利を主張し、団結したほうがいいと思いますね。法に守られたなかで団結していかない限り、これからも製作や配給にボロ雑巾のように使われ、搾取されるだけです」

 監督や役者が汗水垂らして生んだヒット作の裏で、甘い汁をすすり祝杯を上げる周縁の大人たち。「カメラを止めるな!」のヒットは、日本映画界の「搾取を止めろ!」の大号令へと繋がるのだろうか。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2018年12月4日掲載

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