fitbitで分かった 「仲間の力」は偉大である(古市憲寿)

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 最近、fitbit を始めた。手首にはめるデジタル活動量計なのだが、ミソは専用アプリで友人と競争ができること。1日や数日単位の対決もあるし、実際の登山道を模したコースで歩数を競うこともできる。

 たとえばある日は僕が2万1047歩を歩いて優勝、エイベックスの松浦勝人さんが1万5019歩、東京プリンの伊藤洋介さんが1万4298歩だったという具合だ。

 その日、僕は釧路にいた。エンジン01(ゼロワン)という文化人イベントに参加するためである。早めに着いてしまったので、夜の予定までには時間があった。グーグルマップを開くと、ホテルから3キロほど離れた場所にコーチャンフォーを見つけた。コーチャンフォーとは、北海道を中心とした複合店。巨大書店としても有名で、一度は行ってみたいと思っていた。

 グーグルマップ曰く、車だと8分。しかしホテルの車寄せで「タクシーをご利用になりますか」という誘いを断った。もちろんfitbit のためである。その日は、東京から釧路まで移動してきただけなので、それほど歩けていなかったのだ。

 こうして片道40分ほどかかるにもかかわらず、コーチャンフォーまで歩くことにした。結果として、釧路川沿いの散策もできたし、世界三大夕日に数えられる釧路の夕暮れも堪能した(「世界三大」は地元が勝手に言ってるだけだと思うけど)。

 ちなみに、コーチャンフォーは噂に違わず巨大な書店だった。平屋なので、向こう側が見えないほど広い。店内を歩くだけで、かなりの歩数を稼げた。

 それにしても、仲間の力は偉大だと思う。特に金銭的な報酬やペナルティがあるわけでもないのに、なぜか頑張れてしまうのだ。

 同じことは、再び流行しているポケモンGOにも言える。友人とモンスターを交換したり、お互いのステータスを把握できる機能が実装されたことで、ついアプリを起動してしまう。友人の顔が思い浮かび、自分も頑張ろうという気になるのだ。

 昔も、一緒に山に行く仲間や、散歩仲間というのはいただろう。ただそれは、実際に顔を合わせる必要があった。しかし fitbit のようなアプリがあれば、離れていても「部分的友人」になれる。先日、「今日は伊藤さんは全然歩いていないけど大丈夫かな」と思っていたら、実際に肺炎で寝込んでいたということがあった。さながら高齢者宅に設置する見守り電気ポットのようである。

 ただし、fitbit に文句があるとしたら、囚人を管理する腕輪のようにも思えること。1時間座っていると「そろそろ立つ時間です」と命令してくるし、就寝時も装着していると眠りの質も診断してくる。

 今の fitbit は歩数と脈拍数くらいしか計測していないが、将来的にはより細かい生体情報を把握するようになるのだろう。「伊藤さんと一緒にいるときは体調が悪くなります。友だちを止めましょう」と忠告されたりする時代は、それほど遠くないのかも知れない。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年11月22日号掲載

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