このままでは再犯します――「お姫様抱っこ監禁事件」男の訴え 未解明に終わった性犯罪の“原因”

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「フェティシズム障害」

 裁判で、検察側は「一連の犯行は卑劣極まりない」「顕著な計画性」「被害者に落ち度はなく処罰感情は峻烈」ゆえ、厳罰に処すべきだとして、懲役16年を求刑した。

 が、16年という刑期には、栗田自身が驚いている。短すぎると面会で言うのだ。もっと重くなければ、被害者も納得できないだろうと。

 何より栗田が裁判に求めたのは刑の軽減ではなかった。なぜ、髪の毛なのか、原因がわからないと治療ができない。このままだと、外に出れば必ず再犯する。

 裁判所は精神鑑定を行い、栗田は「フェティシズム障害」を有し、治療が必要だとされた。では、そのフェティシズム障害はどこから生まれ、なぜ、髪の毛なのか。その理由が知りたい。

 しかし、栗田が求めたことは“味方”であるはずの弁護人からも封殺された。鑑定結果を受けての弁護側主尋問は、内容に踏み込まず、15分で終了。性犯罪における被害の絶対性ゆえ、「加害者は弁解するな」という法廷戦術を、弁護側も採った。これでは、事件の核心に触れることはない。弁護人は法廷で「再犯の恐れは皆無である」とまで言って、栗田の減刑を求めた。実際の栗田を見て、なぜそんなことが言えるのか。疑問ばかりが残る。

髪の毛が人生そのもの

 犯行時、髪の毛を触ることで「落ち着いた、安心できた」と栗田は言う。

「歯止めになるものは何もなかった。今は小さい頃にもらえなかったもの、生きる意味、存在価値を探していたような気はします」

 栗田は手紙にこう認(したた)める。「人生そのもの」となってしまった「髪の毛」は、栗田にとって外側からは計り知れないほど、大きな意味を持つものとなっていた。異様な生き様ともいえる。

 児童虐待や犯罪心理に詳しい、日本体育大学の南部さおり准教授は、このように指摘する。

「今なら性的逸脱行動が見られる子は、児相が専門医の治療につなげます。潜在的被害者を出さないために。異変に気づくチャンスは何回かあったのに、彼には何もされてこなかった」

 栗田は公判で、「髪の毛のことをわかっていながら、何もしてくれなかった親の責任はあると思う」と、川上家への批判を口にした。ここに来てもなお、自分は被害者であるという立場に固執する栗田。これでどうやって、被害女性たちと向き合うというのだろう。女性たちが口を揃えて「里親のせいにしている」と栗田を非難するのは、あまりに当然のことだった。

 今後について栗田は、「刑務所で、性犯罪者治療プログラムを受けたい」という意思を明らかにした。ただし、それでフェティシズム障害が完治できるとは思っていない。鑑定でも「治療は非常に困難」と指摘されたが、始まりは5歳なのだ。幼児期にまで遡り、歪みを解きほぐすのは容易ではない。治療は年齢を重ねるほど難しくなるからこそ、裁判での原因究明を求めたが、弁解無用とばかりに封印され、結審となった。

 法廷で栗田は、事件当時、被害者の気持ちは全く考えていなかったと述べ、今もどれだけ女性が苦しんでいるのか、考えてもわからないと正直に話した。

 被害者が受けた理不尽な苦しみからすれば厳罰は当然だが、栗田が被害者の苦悩を真にその身で知るためにも、髪の毛に代わるアイデンティティーを獲得しなければいけない。

 栗田のためだけではない。何より十数年後、再び、この男の毒牙にかかる女性を生み出さないために。

黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション・ライター。1959年、福島県伊達市生まれ。東京女子大学卒業後、専門紙記者、タウン誌編集者を経て独立。家族や子どもを主たるテーマにノンフィクションを発表し続ける。主な著書に『誕生日を知らない女の子』(開高健ノンフィクション賞受賞)など。最新刊に『PTA不要論』がある。

週刊新潮 2018年11月15日号掲載

特別読物「『お姫様抱っこ』監禁事件に判決 余罪300件の性犯罪者が拘置所で告白した『私はきっと再犯する』――黒川祥子(ノンフィクション・ライター)」より

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