女賭博師はほんの一面「江波杏子さん」考える姿と女の業(墓碑銘)

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 これが演技派として評価される転機となり、映画出演の幅が広がっただけでなく、「Gメンʼ75」のような人気テレビドラマや、井上ひさしの舞台など、第一線で活躍する女優となる。

 被写体としても愛された。

「新しい自分を創りあげていく力と勇気がある。賭博師というより妖精のようで、謎めいた魅力の持ち主です」(写真家の細江英公さん)

 江波さんを取材した経験があるノンフィクション作家の早瀬圭一さんは言う。

「率直で余分な修飾をせず、的確に話す、気持ちの良い人でした。私の本を読んだ感想まで話してくれたのですが、お世辞ではなく、あの部分はこう感じたと具体的なのです。自分を大きく見せようなんてしません」

 結婚はしなかったが、妻子ある年上の相手と13年も交際したことも隠さない。

 母親が遺した多くの本に触れ、子供の頃から読書好き。ジャンルは問わず、書店で何時間もかけて選ぶほど。新聞も熟読していた。ラジオも好きで、地方公演には小さなラジオを持参すると本誌(「週刊新潮」)で語っている。

 今年4月公開の「娼年(しょうねん)」では、松坂桃李演じる男娼を求めた老女を演じて驚かせた。実年齢の差は46歳。

「和服を上品に着こなした姿で現れ快楽の世界へ導かれていきます。身悶えする息遣いが伝わり、若い女優の赤裸々な場面より観る者を圧倒しました」(北川さん)

 長く肺気腫を患っていたが、生活に支障はなかった。しかし急激に悪化、入院翌日の10月27日に76歳で逝去。

 10月22日までNHKのラジオドラマの収録に参加していた。人間の日常の中に埋もれて見えないものが、ふと浮かびあがった一瞬を、映像でとらえることはできないかと考えたり、心の奥底と向き合う女優だった。

週刊新潮 2018年11月15日号掲載

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