「イッテQ」ヤラセ疑惑をライバル局の制作スタッフはどう見たか 最大の罪は?
「バラエティの典型的なセット」
これが現在までの経緯なのだが、ではテレビ局に勤務する“プロ”は、この騒動をどう見たのだろうか。ライバルの民放キー局に勤める番組制作スタッフに取材すると、「まずはフジテレビとテレビ朝日の反応が興味深かったですね」と言う。
「フジなら8日木曜の『直撃LIVE グッディ!』(月~金:午後1時50分~午後3時50分)がトップネタとして数十分にわたって詳報しました。更に9日は報道のニュースとして『イッテQ“波紋”政府が対応協議』とラオス政府が対応を協議しているとも伝えました。テレ朝も同じ9日の『モーニングショー』が出色で、相当な時間と手間をかけたレポートを放送していました」
このテレビ朝日系列の「モーニングショー」(月曜~金曜:午前8時~午前9時55分)だが、番組では何とラオスの現地取材を敢行。オンエアされた内容も文春側の正確性を“裏付け”した取材結果ということもあり、放送関係者の間でも話題になったようだ。
ご記憶の方も多いだろうが、フジは系列の関西テレビが制作していた「発掘!あるある大事典Ⅱ」で2007年、「納豆ダイエット」を取り上げた回でデータを捏造。2013年には「ほこ×たて」でも捏造が発覚し、両番組を打ち切った過去を持つ。
テレ朝は日テレと猛烈な「視聴率三冠王」の座を争っている。魯迅の「溺れる犬は石もて打て」という諧謔は有名だが、両局とも日テレのスキャンダルを大きく報道する“動機”があるわけだ。
そして、この番組制作スタッフは、日テレの反論は「苦しい」とし、文春の報道が「真実性が高いと思います」と指摘する。
「あの祭りの様子は、日本のバラエティ番組で作られる典型的なセットです。特に支柱を立て、障害物のボールを回すのは、定番の演出と言っていいでしょう。私は偶然、オンエアを見ていたのですが、『伝統的な祭りには見えないよ。バラエティのセットそのままじゃん』と強烈な違和感を覚えました。しかも、番組の中で宮川大輔さんは『「風雲!たけし城」みたいだ』と口にしました。これは文春さんも書いていましたね」
ちなみに「風雲!たけし城」は正確には「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」のタイトルで、TBSが1986年から89年にかけて放送し、高い視聴率を誇った。
視聴者参加番組で、例えば池の飛び石を渡るといった“ゲーム”に挑戦する。失敗すれば池に落ちてしまう。こんな内容が人気を呼んだのだ。確かに今回の祭りに類似している。若年層には、同じTBSで不定期放送されている「SASUKE」に似た番組、と説明すればいいだろうか。
制作スタッフは文春のヤラセ報道に軍配を上げながらも、日テレの説明にも「明白な虚偽」は存在しない可能性が高いという。一般人には「詭弁すれすれ」であっても、さすがに日テレが嘘八百を強弁しているわけではないようだ。
「日テレの反論は、『現地からの提案を受けて成立した』が肝です。一応は事実で、主張における生命線のはずです。多分、現地のコーディネーターから企画提案があり、現地側にセットの設置などを丸投げしたのだと思います。日テレのスタッフは制作現場から距離を置くことで、自分たちがヤラセに関与していないことにしたのでしょう」
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は9日、日テレに報告を求めることを決めた。事態は流動的だが、もし本格的な調査・検証の対象となれば、どのような点に注目が集まるのだろうか。制作スタッフは「日テレ側が具体的なアドバイスをしたかどうかが焦点になると思います」と解説する。
「あの回転するボールを現地スタッフだけで発案して制作したのなら、相当なセンスだと言わざるを得ません。よほど日本のバラエティ番組に詳しいスタッフがいたことになります。しかしながら、現地側の提案に対し、日テレ側が『回るボールを障害物にしたら、もっと面白い』と助言したというシナリオのほうが、現実的ではないでしょうか」
週刊文春の記事には〈自転車アクティビティの実施は日本側が提案し、タイの人間が手伝って実現〉や、〈日本側が障害物などを含めたセットを考え、タイの人間が手伝った〉といった興味深い記述がある。確かに、解明が求められるポイントかもしれない。
最後に制作スタッフは「あのVTRに番組側がゴーサインを出したのが不思議でなりません」と首をかしげる。
「番組スタッフが海外に飛んでみたら、コーディネーターの話とは全く違ったなんてことは日常茶飯事です。それでも、ヤラセといった禁じ手に手を染める必要はありません。正々堂々と面白いVTRにまとめるのが私たちの腕の見せ所です。そして不思議なことに、『イッテQ』こそロケの失敗や不成立を逆手に取り、それを笑いに変えてきた番組なんです。なぜ今回に限ってリスクの高い過剰演出に踏み切ったのか、全く理解できません」
この「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」が人気なのは、宮川大輔の魅力が大きい。彼が挑戦すれば、どんな祭りでも面白くなり、視聴率が取れるVTRになるのだ。
「私だったら、次のように演出します。宮川大輔さんがコーディネーターの話を信じて現地に飛ぶと、日本のバラエティ番組とそっくりのセットが用意されている。しかも祭りが、少なくともこの地では初開催だとも分かる。宮川さんは頭を抱えるけれど、祭りの成功のため一肌脱ぐ。こういう事実に即した展開にしても、宮川さんなら絶対に面白いVTRになったはずです」
制作スタッフは「最大の罪は、これまでとは比較にならないほど面白くない回に、宮川さんを出演させてしまったことですね」と本音を語る。
かつてフジテレビは「楽しくなければテレビじゃない」(1981年)とぶち上げ、黄金期を作りあげた。ヤラセのVTRは「楽しくない」のだ。それをプロが見抜くだけでなく、素人にも伝わってくるのだろう。
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