ジュリーのドタキャン騒動に感じた“懐かしさ”(中川淳一郎)

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 沢田研二のさいたまスーパーアリーナコンサートが開演直前にドタキャンされた件では、2000年代前半~半ば的な空気を感じ、懐かしくなりました。最初は、一体なぜなのか分かりませんでした。

「こういうことか!」と気付いたのは、この件を報じるテレビカメラに、ドタキャンを伝える手書きの貼り紙が登場した時です。この貼り紙を撮影する手が多数、テレビの画面に映っていたのですが、ガラケーが目立つんですよね。昨今、人々が集まって撮影をしている場面をメディアの報道などで見かける場合、スマホをかざしている人が大量に映りますが、縦長のパカッと開くタイプのガラケーがこの件では目立ったのです。

 思えば02年のサッカー日韓W杯でデビッド・ベッカムがやって来た時、「冬ソナブーム」でペ・ヨンジュンが来日した時など、当時は老若男女問わず空港でガラケーを掲げ、スターの姿を捉えようとしていたものです。

 その時の姿を髣髴させると同時に、もう一つの事実を突きつけました。現在70歳の沢田はすっかり太り、白髪ヒゲを蓄えておりますが、これは年齢相応の姿です。しかし、10~30代の頃はイケメンの代表みたいな扱いだったことを考えると「ジュリー老けたな……」と思ってしまう。後日行われたライブでは80歳までの現役宣言をしたのでこれからの活躍も期待できそうですが、このガラケーの放列を見て思ったのが「ファンも高齢化したんだな……」ということです。

 現在45歳の私はIT系の仕事をしているにも拘らずスマホを持っていないことに驚かれますが、仕事で出会う人々は全員がスマホ持ちです。また、都心の地下鉄に乗ることが多く、乗客の大部分がビジネスマンで、向かいのシートに座る7人全員がスマホを見ている、なんて状況もよくあります。ガラケーを見かけるのは、休日の昼間、高齢者の多い郊外の電車を利用する時ぐらい。なぜか高齢者ってマナーモードにしておらず、「タラッラタラタッタッ」みたいな着信音が時々聞こえてきてガラケーを出すんですよね。

 この音、今や絶滅危惧種たるガラケーの中で数少ない、新品を買うことができるシャープのアクオス携帯の使用者が、出荷時の着信音の設定を変えなかった場合の音です。えぇ、私もこの音です。ジュリーと同世代、私の73歳の両親もガラケー持ちですが、さいたまスーパーアリーナに来た人の多くは同世代なのでしょうね。

 世の中、自分の周囲やSNSで繋がっている人の感覚こそが「みんな」の常識みたいに思ってしまいがちですが、ジュリーの騒動はそれなりにガラケーユーザーが存在することを改めて教えてくれました。

 今年5月に博報堂のグループ企業が発表した調査によると79・4%がスマホ所有者でしたが、高齢者だらけの集落なんかではガラケーユーザーがマジョリティかもしれません。

 折しもこの原稿を書いている当日、とある研究機関から「みんな」という言葉の解釈について取材され、「自分の常識の範囲における“みんな”なのでは」という話をしました。私の周りの「みんな」も別のクラスタ(集団)からすると「みんな」には含まれないのでしょう。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年11月8日号掲載

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