「偏差値」よりも「情熱」こそが医師への道! 受験エリートでなくても医師になる方法

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 東京医科大学を発端とした医学部の不正入試問題。文科省の調査では、同大学以外にも複数の大学で、性別や浪人年数によって得点操作するという、公平性に欠く入試をしていた疑惑が浮上している。こうした差別的な大学の対応が発覚したことで、過去の受験生が、受験料の返還や慰謝料などを求める動きも出てきている。

 そもそも、日本の医学部は超難関だ。教育ジャーナリストのおおたとしまささんは新著『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』のなかで、医学部について「日本の『受験システム』におけるごく一部の“勝ち組”すなわち“偏差値長者”にしかその門は開かれていない」と語っている。つまり「医師になって人助けをしたい!」という強い志があったとしても、偏差値が足りなければ、医学部に入学するどころか志望することすら「非現実的」と一蹴されてしまう。逆に「偏差値が最も高いから東大医学部に行く」という受験生も少なからず存在する。

「偏差値」という高いハードル故に、幼い頃から描いた医師になりたいという夢を、諦めてしまう人も多いのではないだろうか。だが、おおたさんは同書で「医師になるには、本来、偏差値よりも情熱が大事」と語り、「受験エリートでなくても医師になる方法」を紹介している。実際に、「医師になりたい」という強い情熱を持ってその方法を選んだ人の話を交えながら、同書をもとに具体的な方法を探っていこう。(以下、「 」内は『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』より引用)

ハンガリー経由で医者になる!

 吉田いづみさんは、小さな頃から医師に憧れを持っていた。しかし高校受験が思い通りにいかず、自分の成績では日本の医学部は難しいだろうと15歳の時に医学部進学を諦めた。それでも、医師への憧れをどうしても捨てきれず目を向けたのが、海外大学への進学だった。

「調べていくうちに、ハンガリーの国立大学医学部が、積極的に外国の学生を受け入れていることがわかった。日本に窓口もある。すぐに説明会に参加した」

 日本の私立大学医学部に行くことを考えたら、生活費を含めても約半分の費用ですむ。入学試験はあるが、日本の医学部ほどに難しくはない。すぐに入学の出願をし、3カ月の英語の特訓を受け、その後予備コースへ入学。1年間、予備コースで英語と理科系科目の基礎を中心に学び、1年後に、晴れて本コースの入学試験に合格。医学生としての6年間の生活が始まった。

「同時に入学したのは世界中から集まる200人強の学生。日本からも15人くらいが入学した。共通言語は英語。授業も英語で行われる。
 吉田さんは現在3年生。ハンガリーで医師を目指すという選択を、強くおすすめしたいと言う。

『勉強はたしかに大変ですが、特別に学力が高い必要はないと思います。自己管理をしっかりして、まじめにやりさえすれば定期試験はクリアできます。(中略)私の学力では日本の医学部にはどこにも入れなかったと思います。でもいまこんなに恵まれた環境で医師になるための道を歩んでいるのです。ハンガリーという選択に気付くことができて良かった』

 勉強は、座学が中心の前半3年間が特に厳しい。年4回ある定期試験をすべて合格しないと進級できない。計12回の定期試験を乗り切れば、はっきり先が見えてくる。実技系が増えてくる後半3年間での留年は少ない。

 無事6年間のカリキュラムを終えると、卒業と同時にEUで通用する医師免許が得られる。日本で医師として働く場合には日本の医師免許を取得しなければならないが、いまのところハンガリー帰国組の合格率は49人中41人と、8割を超えている」

日本の偏差値は参考にならない

 おおた氏は、ハンガリー医科大学日本事務局の専務理事の石倉秀哉さんに、改めて「ハンガリーで学んで医師になるしくみ」を取材している。

――ハンガリーの医学教育のレベルは?
「ハンガリー国立大学医学部進学プログラムに参加する4大学は、すべて日本の医師国家試験の受験資格基準を満たしている大学です。ハンガリーの医学部のレベルはもともと高く、特に基礎教育のレベルが評価されていますし、生徒1人当たりの教員の数では日本の医学部のそれを上回ります」

――入学の難易度は?
「日本の医学部にはどこにも入れなかったような学生が、ハンガリーの医学部に合格し、そこで勉強し、実際に日本で医師として働き始めています。日本で医学部をあきらめたようなひとでもチャンスはある。ただし、日本の大学が入口で絞るのに対して、ハンガリーの大学では間口を広くしている分、入ってからが厳しい」

――最終的に日本で医師免許を取得できる割合は?
「2013年卒業の1期生から2016年卒業の4期生までのデータを集計すると、約150人が入学し、49人が卒業して帰国、そのうち41人が日本の国家試験に合格しています。まだ留年している学生もいますし、2017年には19人が卒業しているので合格率はさらに上がるでしょう。

 これまでの実績では、3分の1がストレート、3分の1が留年を経験、3分の1が途中で脱落、卒業率は約50%といったところ。しかし近年は歩留まりが良くなっています。優秀な学生が応募してくるようになったからです。中には日本の医学部合格を蹴って、ハンガリーで学ぶことを選択する学生もいます。日本の大学入試での医学部志望者すべてを母数にすると、日本で最終的に医師になれる確率は60分の1ともいわれています。それと比べれば、ハンガリーの医学部を目指したほうが医師になれる確率は高いといえます」

 石倉さんによると、日本の医学部にはどこにも入れなかった学生が、ハンガリーの医学部で学び、日本の国家試験で上位5%に入る好成績を残したこともあるのだとか。また、開成高校や灘高校といった最難関の高校からハンガリーの医学部に進学した学生もいるという。

 最後に、ハンガリーの医学部に向いている学生について聞くと「なんといってもモチベーションです。医師が自分の天職だと信じて何があっても最後まで食らいつく気概が大切。いわゆる地頭の良さや人間的な総合力というのは必要だと思いますが、日本の受験システムの中で偏差値がどれくらいだったかはあまり参考になりません」と語ってくれた。

 医師になりたいひとも、弁護士になりたいひとも、公務員になりたいひとも、会社員になりたいひとも、実業家を目指すひとも、みんなが同じテストを受けて1点2点を争い「偏差値」を競い合うのが日本の受験システムだ。

 もちろん「偏差値」という指針が悪い、ということではない。しかし、たとえそこで行き詰まったとしても、強い情熱を持っていれば、どこかに道はあるということを、子どもたちに教えるのも大切な教育なのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2018年11月9日掲載

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