準秘境「アイランドルミナ」のとっておき(古市憲寿)

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「何か新しいものってない?」「最近面白い人や場所ってあった?」テレビや出版業界で働いている人と話すと、よく出る話題だ。まさにそんな場所、長崎のアイランドルミナに行ってきた。教えてくれたのは人狼や脱出ゲームをいち早く番組化した若手のテレビマン。しかしその彼も話に聞いたことがあるだけで、自分では訪問できていないという。なぜならアイランドルミナ、なかなかにアクセスが悪いのだ。

 場所は長崎県南部に位置する伊王島町。長崎空港からは車で1時間半。長崎駅からは無料送迎バスも出ているが、決して行きやすい場所とはいえない。しかも施設の性質上、東京からの日帰りが非常に難しい。

 アイランドルミナは、体験型ナイトウォークである。島の一角がまるごとデジタルアート施設になっていて、その中で光と映像を楽しみながら、物語を経験することができる。制作はカナダの気鋭アート集団、モーメントファクトリー。今年、安室ちゃんのドームツアーで映像演出を手がけたことでも知られる。

 ナイトウォークだから、もちろん開始は日没後。施設のそばにはホテルや温泉もあり、宿泊するには困らないが、ぱっと行って帰ってくるのは難しい。島なので飲食店の閉店も早い。

 しかし結論から言うと、行くべき価値のある場所だった。深い森の中で蛍の群れのような光に包まれたり、海に浮かぶ巨大な龍にびっくりさせられたり、ものすごく上質なエンターテインメント施設。

 自分のお金で行ったのだから悪口を書いてもいいのだが、文句があるのは本当にアクセスの悪さくらい。ホテルニューオータニの庭や、新宿御苑あたりで同じレベルのアート作品があったら流行すると思う。

 やや残念なのは、インスタ映えの悪さ。手元のiPhoneで撮影しても、なかなかアイランドルミナの素晴らしさを伝えることができないのだ。この時代、写真や動画で共有しにくいものは、なかなか広まらない。

 今回はハウステンボスにも行ってきた。施設の古臭さは隠せないし、イルミネーションのレベルも高くはないのだが、非常にインスタ映えはした。実際、何枚も写真をインスタに投稿してしまったくらい。

 一方のアイランドルミナは、本当に写真を撮るのが難しい。なかなか美しさを伝えられないのだ。しかも、脱出ゲームにおける謎解きのように、明確なゲーム性があるわけでもない。

 帰り際、スタッフに1日にどれくらいお客さんが来るのか聞いてみた。「多いときは1日で100人くらい来ることもあります」。実際にはもっと賑わう日があるのかも知れないが、確かに僕たちが訪れたときは貸し切り状態だった。

 レンタカーを返すとき、この話をすると「え! ナイトウォークって毎日100人も来るんですか。すごい、私も行ってみよう」。長崎で100人はすごいのだろうが、きっと制作には膨大なお金がかかっているはず。潰れないうちに行くのをおすすめします(行きにくいけど)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年11月1日号掲載

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